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ナーシェルと不思議な仲間たち

  • 2019年9月26日
  • 2020年2月24日
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其の八 女王、かくのごとく笑う

 ナーシェルは階上から、階下の三人をながめおろしていた。
 ミッチとネッチのまえに、女王が仁王立ちしている。二人は氷ついたようにうごけないでいた。
 シングルハットが、
「まずいぞ……」
 とさしせまった表情でうめいた。
「女王、あなたはもうひとりじゃないよっ。これからあなたとともに暮らす友人がくるんだっ」
 ナーシェルが階下にむけて大声でさけんだ。
「うそを申せっ、そんな者が来るものかっ」
 女王はカミをふりみだして否定した。
 二人はこのすきに、スザとうしろにはいさがった。
「う、うそじゃないっ、ほんとにくるんだ」
「そ、そうなんだ。いま仲間が連れに行ってるっ」
「おのれ、まだ言うか!」怒りにもえる女王が、頭上に巨大なツララを出現させた。「串刺しにしてくれるっ」
「やめてぇ、おねがいだよ、女王!」
 ナーシェルがノドがひしゃげたような悲鳴を上げた。
「死ねぇっ」
 氷柱の鋭利なせんたんが、ふたりに向かって、まっしぐらに空をつきすすんだ。
 ネッチとミッチはたがいに抱き合い、かたく目をとじあった。
「ミッチ、ネッチ!」
 シングルハットが絶叫した。
 ナーシェルが顔をそむける。
 あわや、ふたりにつきささるかと思われた氷柱は、その寸前に微塵にくだけちった。
「なんじゃとっ」
 女王が目をみはった。すると、
「ホーホッホッ」
 ふりむくと、門のあたりでキウイ族がはねまわっていた。
 トラゾーとふうせん男爵が、キウイをひきつれこちらにやってくる。
 マチルダたちが力を合わせて女王の魔法をうちやぶったのである。
 ネッチとミッチはほっと気がぬけて、その瞬間バタリとねころがってしまった。
「な、なんじゃおぬしらっ」
 女王はおどろいて、ちかづいてくるキウイ族をにらみすえた。
 トラゾーとふうせん男爵がひたりと止まり、それに連れてキウイたちも立ち止まった。
 
「女王」
 その中から、まっ白なキウイがしずしずと出てきた。マチルダばあさんである。
「マチルダばあさん……」
 ネッチたちのところまで降りてきたナーシェルが、つぶやくようにその名を口にした。
「マチルダ……」
 と、女王も呆然とうめく。
「われら、キウイ一族、女王のお許しがあれば、終生をともにしとうござりまする」
「わらわと……」
 女王は凝然とかたまってしまった。
 マルはナーシェルの腕からおりて、女王のところへ歩いていくと、ぴょんとその胸にとびこんだ。
 女王は口をあっという形にして、マルを抱きとめた。
「そ、そなた」
 愛しげにマルを抱きしめる女王のまわりを、キウイ族がかこんだ。
「あなたはわれらが女王にござりまするゆえ」
 マチルダが深々と頭を下げた。
「そうか、わらわとともに暮らしてくれるのか」
 女王は花のように顔をかがやかせ、あつまったキウイたちを両手でかきいだいた。
「礼を、礼をいうぞ」
「なにを申される、この国は女王の物じゃ。よいのですぞ」
 トラゾーがサムライらしくきちんとしめた。
「そうか、そうであるか」
 女王は目尻に涙をにじませ、なんどもうなずいた。
「われらキウイは女王とともにあり!」
 マチルダが杖をふりあげ、高らかに宣言する。
 今や、城は集まったキウイ族にうめつくされている。キウイたちがいっせいに歓声を上げ、あたりをはねまわりはじめた。
「ふうせん男爵っ、トラゾーじいさんっ」
 六人はひとかたまりになって、互いの無事をよろこびあった。
「よかった、間に合ったようだな」
「間に合ってるもんかっ、わしは死ぬかとおもったんだぞっ」
 ミッチが手をふり上げて怒った。
「はっはっはっ、終わりよければすべてよしじゃよ」
 トラゾーが調子よく笑っている。そこへマチルダが杖をつきつつ歩いてきた。
「マチルダばあさんっ」
 とナーシェルがはしり寄ると、
「われらは寒さにつよい。任せておきなさい」
 とマチルダはたのもしい。
「女王さまぁ」
 ナーシェルがさわいでいる一同からはなれ、輪のなかにいる雪と氷の女王のもとへと走っていった。
「ふん、全部はきだしたらスッキリしたわい」女王はサバサバした表情でいった。「わらわはずっと友だちがほしかった。大勢の仲間とともに、暮らしてみたかったのじゃ」
「はじめからそういえばよかったのに」
 シングルハットがコソリと悪態をついた。
「うむ……最初から素直になっていれば、あんな思いはせずにすんだのやもしれん」
 女王は思いだすかのように上をあおいだ。
 いつのまにか、ナーシェルのうしろに立っていたネッチが、口をきいた。
「これからは、月にいちど晩餐会を開いて、みんなを招待するといいよ。ずっとここにいるのは無理だけど、一日ぐらいはなんともないんだし……ただし、その時は雪は降らせないといいよ」
 女王はトロンとした目でネッチを見つめた。
「おぬし、名前は?」ときいた。
「ネ、ネッチモンド……」
 異様なものを感じとりながらも、こたえるネッチ。
「伯爵だぞっ」
 と、シングルハットが自慢げにいった。
「おお、伯爵、それはすばらしいっ」と女王は顔を輝かせた。しかも、「そなたわらわの婿になってくれぃ」とネッチにせまったのである。
「う、うええっ?」
 ネッチは目玉がとびだすほどおどろいた。
 そりゃ今の女王は、さっきの鬼婆はどこかとおもうほどに美しい。しかし、ネッチにはつぎなる冒険が待っているのである。
「み、ミッチ、助けてくれぇ」
 と、なさけない声で助けをもとめた。
「助けないのか?」
 肩の上でシングルハットが問いかけた。
「ほうっておこう」
 ミッチはつめたく、相棒を見捨てるのであった。

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