「あいたた、ひどい目にあった」
ミッチは腕のないネッチを、苦労してたすけおこしながら、しきりに腰痛をうったえている。
「じつに──じつにすさまじい破裂だった」
と、ネッチがいたそうに奥歯をかんだ。
「男爵はどこに行ってしまったんだろう?」
ナーシェルがきょろきょろとふうせん男爵の姿をさがしている。そのうち、乱気流にもまれていたシングルハットが、ふらふらふらりとおりてきた。
あいかわらずぺらぺらのままだが、それでもへらず口だけは健在のようで、
「よくもおいらをこんな目にあわせたなっ。男爵め、前歯がもどったらおぼえてろっ」
と、怒っている。
後ろから、ネッチとミッチもやってきた。
「男爵のすがたが見えないね」
「あいつめ、きっと逃げたにちがいないぞ」
四人はしばらくふうせん男爵をさがしたが、いっかな姿がみえない。
なかばあきらめかけた時、
「おーい、おーい」と、上から声がした。
みあげると、ふうせん男爵のしぼんだ体は、こわれたシャンデリアにからみついていて、そこから助けをもとめているのだった。
シングルハットはしかたがないというふうにため息をついて、シャンデリアにからまった男爵の体をほどいてやった。
下におりてきた男爵のからだは、みるも無残にちぢんでしまって、干柿のようになっていた。
血色のよかったほっぺたは、ウソのように青白く、おじいさんのようにシワだらけになっている。なんせ、皮がたれ下って目がなくなったのだから、その変貌ぶりといったらなかった。
だから、
「お願いだから、ポンプで空気をいれてくれよぉ」
といったときには、ナーシェルはすっかりたすけて上げる気になっていた。
ポンプは足でふむタイプの奴で、男爵はホースをへそに当てて、空気を体にためこんだ。
ナーシェルがポンプをふむたびに、もりもりもりと、男爵の体がふくれていく。
「もとにもどったら、また悪さをするんじゃないか」
とミッチたちは心配したが、男爵はしょげてしまって、その心配はまったくなかった。
数分後、もとのサイズにもどったときにはすっかり感謝して、おとなしく封書をさしだした。