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ナーシェルと不思議な仲間たち

  • 2019年9月26日
  • 2020年2月24日
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 それからは、じつに順調な空の旅がつづいた。
 地上はずっとずっと遠くなり、遠方に、雲におおわれた雨水国、雨のふりやまぬブリキの国、落葉のつづく木の葉の国などがみえた。やっぱり、ブリキの国のはんぶんは闇にとざされている」
 と、ふうせん男爵が上からいった。闇はとうとうブリキの国にまで及んでいたのである。
「木の葉の国も、もうはんぶんも枯れちゃってる」
 ナーシェルが形のいい眉をぐっとよせた。
「雪と氷の国だ」
 ミッチがさけんだ。
 ネッチがその方角をみると、雪におおわれた銀色の国がある。
「おお、あれがわが故郷、雪と氷の国じゃっ」
 トラゾーがうれしそうにさけんだ。
「そもそもの元凶なんだよなぁ」
 シングルハットがまた悪態をつく。
 気球は最上層をぬけていき、やがて国々の姿も見えなくなった。かわってあらわれたのは、天をうめつくさんばかりの星だった。
 ナーシェルたちはその光景に心をうばわれた。
「おお、この景色、ひさしぶりだなー」
 と、ネッチとミッチは手をとりあってよろこんだ。ナーシェルが、
「ひさしぶりって? まえにも来たことがあるの?」
 ときいた。
「ああ、まぁうん……」
 ネッチが言葉をにごしていると、ふうせん男爵がにわかに大声を上げた。
「みろ、月の御殿だ!」
 本当だ。
 黄色くデコボコした月のうえに、星明かりのように、青白くてる御殿がたっている。
 ふうせん男爵は御殿のうえまでいくと、ポンプをはずして空気をぬいた。
 しゅーしゅーと音がして、気球は月の引力にひっぱられはじめた。
 ゴトン、とカゴが月面におりたつ。
 御殿とおなじ素材の床ばりで、それが青白く光沢をはなつのが、なんとも印象的だった。
「キレイなとこだねぇ」
 とネッチはいった。カゴにつづいて、ふうせん男爵も月面におりてきた。
 男爵はヘソからポンプのホースをぬき、
「おーい、はやくヘソ蓋をしめてくれよ。また空気がぬけちまう」とピョンピョンはねながらどなった。
 月はとてもしずかで、清涼な空気に満ち満ちていた。
 ナーシェルがすこしわらった。
「ちょっとさむいね」
「月面だからねぇ」
 とネッチがのんびりこたえた。
「月の王、出てこい!」
 シングルハットがおどり上がると、ミッチがその頭をつかみ、
「調子にのるな、ハツカネズミ。わしらは重大な使命をおびて月にきたのだぞっ」ぐっとりきんだ。
「なにが使命だ。だれもミッチになんてたよってないやい」
「なにをーっ」
 ケンカをする二人をしりめに、トラゾーは刀を(相当に苦労して)スッパぬいて歩きまわった。
「うーむ、敵よ、出てこい! 我が愛刀ヒポトンクリス三世の、サビにしてくれる!」
 と大声で呼ばわるトラゾーに、ナーシェルがあわててしがみついた。
「ケンカしに来たんじゃないんだってばっ」
「ヒポトンクリス……そんな名前だったのか?」
「三世……なんでだ?」
「ふはははは、血がさわぐわっ」
 あきれる一同を前にトラゾーはますます快調に息を巻くのであった。
「さぁ、どいつでもいいから、かかってこいっ」
 と御殿にむけて大声でさけぶ。
「ふうせん男爵、刀をとり上げてよっ」
「ばかに刃物だっ」
 みんなでトラゾーを押えつけていると、宮殿からワラワラと影がいくつも走りでてきた。
「さわいでいるのは誰だ!」
 と、かんかんに怒って槍をかまえたのは、かわいらしい月うさぎの兵隊である。
 これには、トラゾーも毒気をぬかれてしまった。
 うさぎたちは、みんなりっぱな服をきて、手にはみじかい槍をもっていた。ながい耳をぴんとつきたてながら、
「ここは月の王の御殿だぞ、どうやってはいってきたっ」
 と問いわめいた。
 ナーシェルは自分の腰ほどしかないウサギにどなられても、ちっともこわくなかった。
「こいつ、わらうな!」
 すると、月ウサギは、おこって槍をシッシとつきだした。
「あ、あぶないっ」
 ナーシェルたちが肝をひやしてとびのく。
「こやつ──」
 トラゾーがススとすすみでて、そいつの頭をしこたまたたいた。
 月うさぎは横転して、ボンヤリしている。
 その月うさぎに、
「まいったかっ」
「トラゾー……」
「うさぎ相手に……」
 なんだかひんしゅくを買ったトラゾーじじいである。
「抵抗したなー! もうゆるさん!」
 月うさぎたちはかっと激怒して、槍をずらっとならべてきた。ナーシェルはしどろもどろに弁明した。
「やめてよ、ぼくらは月の王さまに会いにきたんだ」
「王さまに? なんの用だ!」
 えらそーにわめく月うさぎに、シングルハットは頭にきて、
「ばかやろうっ。月の王のせいで地上はとんでもないことになってるんだぞ!」
 と言ってやった。
「そんな言いがかり……」
 反論しようとしたうさぎたちは、背後に人の気配をかんじてふりむいた。
 御殿からやさしげな老人がすたすたとでてきた。
 ながくのびた白いヒゲに、月をかたどった装飾の杖。
「なにをさわいでおるのだ」
 老人のとがめるような口調に、月うさぎたちはさっとひざまづいて言いわけをはじめた。
「月の王だっ」
 とナーシェルがふりかえると、みんなはいっせいにうなずいた。
「あの者たちがとつぜん御殿にあらわれまして……」
 うさぎがいうと、月の王はナーシェルたちに目をむけた。
「そなたたたちは何者だ?」
 としずかな声できいた。
 さすがに月の王だけあって、太陽の王さまよりはおしとやかだな、とナーシェルたちはおもった。
「王さま。地上はいま、王さまたちのケンカのせいで、大変なことになってるんですよ」
「わしらのせいで?」
 と月の王はすっとんきょうな声を上げた。
「そうです」
 すると、月の王はうーんとなやみだした。
「みな、なかにはいってくれ。くわしい話をききたい」
「王さまっ、こんなやつらを御殿にいれる気ですかっ」
 反対する月うさぎに、シングルハットはアカンベーをしてやった。

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