其の二 ブリキの王さま、頭をなやます
ブリキの城にも門番がいる。木の葉の国ではトランプ兵。こんどはブリキの兵隊だった。
ところが、かれらはたいへん元気がなく、うごいても体をギーギーいわせるばかりで、まったく精彩というものがない。
「雨水のせいだ」
ナーシェルはいまいましそうに雨雲をみやった。
木の葉の国からの使いだというと、ブリキの王はすぐさま会ってくれた。
ブリキの王さまは、やはりブリキでできていて、あたまにブリキの王冠をかぶり、せなかにはブリキのマントをはおっている。
ブリキでできたかたそうな椅子に、どしりとすわって待っていた。
「おお、よくきたな。木の葉の国の女王は元気でおるか?」
と言われたので、ナーシェルたちはひどくびっくりしてしまった。
「んっ? どうしたのじゃ?」
王さまはナーシェルたちのようすに気づいて声をかけた。
ナーシェルはだまって封書をもっていった。
王さまはしばらくうんうん言いながら封書をよんでいたが、やがて顔を上げると、
「そうか、木の葉の国はやはり……」
と、苦しそうにつぶやいた。
それから視線をナーシェルにむけて、
「お主がナーシェルなのだな。木の葉の女王のくるしみはよくわかるぞよ。なにせ木の葉の国を苦しめている原因は、この国にあるのだからな」
王さまはつらそうに言葉をはきだされた。ナーシェルはまよっていたが、おもいきったように口をきいた。
「王さま、王さまはなぜストーブをとめてしまったの?」
「…………」
ブリキの王はだまっている。なにか言いにくそうだった。
ナーシェルは質問をかえることにした。この国についてから、ずっと気になっていた疑問だった。
「ブリキの国はどうなってしまったの? こんなに雨がふっては、国中がやがてはサビだらけになってしまうよ」
「うむ……」
と王さまは静かにうなずいて、ブリキのヒゲをゴシゴシしごいた。
王さまは窓に目をやった。雨が滝のようにながれている。ざーざーという音が耳ざわりだった。
やがて、王さまは話をはじめた。
「雨水の王がとつぜんわが国に雨をフラしはじめたのだ。おぬしのいうとおり、このままでは国のものはみなサビてしまうだろう。わしの体もほれ」
と、ブリキの王は玉座をたった。
関節をうごかすたびに、ギーギーと音がする。王さまの体も、すでにサビがはじまっているのだ。
「もうサビがはじまっておる」
かなしそうに言った。
王さまはつかれたように椅子に腰をおろしたが、そのときもブリキのあわさる音がした。
まわりの側近が、さめざめと泣きはじめた。
「なぜ雨水国は雨をふらすの?」
「わからん。とつぜんのことだった。たしかめようにも、ブリキの国の住人では、いっぽも外にでれんのだ」
ここでブリキの王はつよい視線をナーシェルにむけた。
「まさか……」
ポケットのなかで、ふうせん男爵はうめいた。いやな予感が、頭のなかではしりまわっている。
はたして、その予感は的中した。
「虫のいい願いだとはわかっている。だが、このことをたのめるのは、お主たちをおいてほかにないのだっ。たのむ、ブリキの国のために、雨水国に行ってくれっ」
「でも、ぼくは……」
ナーシェルは言葉につまった。ふりかえり、仲間の顔をみる。
ネッチたちもこまってしまった。とても石炭のことをきけるふんいきではない。それに、ナーシェルはまたやっかいごとを押しつけられそうなのだ。
「王さま。せめて木の葉の国のために、花と草木のストーブに、火をともしてもらえませんか?」
王さまはかなしそうにナーシェルを見つめていたが、すこしたって口をひらいた。
「ついてきなさい」
そういって、さきに立つと歩きはじめた。
ナーシェルたちは顔をみあわせ、王さまの後についていった。