其の六 ふうせん男爵の屋敷
ふうせん男爵の屋敷は、ちょっとした古城といった感じだった。
キタの町でみた木の家とはちがって、かたい石でつくられている。古ぼけて、いかにもあやしいやつが住みそうな城だった。
屋敷にはツタがからみつき、あちこちひび割れている。庭の草ものびまかせのようで、噴水や石像がそのなかにうずもれていた。
窓もうす汚れて透明感がない。中は見えなかった。
あたりに人家(といってもただの木なのだけれど)はなく、屋敷はぽつねんとさみしい。上でカラスがかーかーなきだした。
空がにわかに曇りはじめ、今にもカミナリがなりだしそうな天気になった。
「どうどう」
ナーシェルはドードー鳥を止めると、門前で男爵の屋敷をみあげた。
「きったないとこだなあ」
「そうかい? わたしはアンティークでいいとおもうがね」
ネッチたちもかってな感想を述べている。
「はやく行って、わしの髪をとりもどそう」
ミッチがうしろから言ってくる。
「おいらの前歯もだ」
「わたしは腕だ」
「ぼくは耳と封書だ」
最後にナーシェルが手をふりあげると、ドードー鳥がクエーとないた。
四人はかんかんにおこって、ひらいた門に足をふみいれた。
屋敷の両扉はドデンとおおきく、ナーシェルたちは力をあわせて、右がわの扉を押しあけた。
さびついた蝶番が、いやな音をたてる。
びゅうと風がふいて、空きカンがからころところげていく。
ナーシェルたちは、ドキン、とそのたびに背筋をこわばらせたが、ネッチがようやく(といってもこわごわだが)屋敷にはいろうとしたので、ミッチとナーシェルも、互いにだきあうようにして後につづいた。