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ナーシェルと不思議な仲間たち

  • 2019年9月26日
  • 2020年2月24日
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 こちらは、子どもの頃に書いた作品のひとつです。小学生から、高校の途中までの作品は、大学ノートに書いていたので、引っ越しの時捨ててしまいましたが、この作品は、ワープロで書いたんでしょう。 当時は、フロッピーに保存しておりました。 そのため、原稿のところどころが、欠けています。 では、ナーシェルと不思議な仲間たち、どうぞ!

◇  はじめに……

 銀河をずっと下ったところに、とてもきれいな星がある。
 その星はとても平和で、戦争なんてない。一年中がずっと春で、木も草も生き物も、とても仲のいい星なのだ。
 地上はずっと地平線まで花でおおわれていて、そこには一番きれいな水がながれている。
 常春の星には病気なんてない。食物はあちこちになっているから、泥棒もいない。だから、みんなのんびりしてしまって、ひとに襲いかかるようなこわい動物もいない。
 そんな星にすむ人たちは、きっとのんきで仕事なんてしないにちがいない。ここは銀河でいちばん幸せな星なのである。
 とても遠い星だから、きっと行った人はいないんだろうな。

 きれいな星のきれいな屋敷には、ひとりの貴族が住んでいる。ネッチモンド伯爵の屋敷である。
 町中の職人が技術の粋をつくして造り上げた白亜の屋敷はおだやかな陽射しをうけてきらきらとかがやき、広大な敷地には狩猟用の動物がはしりまわっている、はずだった。
 もともとこのウインザー家は星いちばんの名門の家であったが、伯爵自身は変り者で、都市にでて権力争いにしのぎをけずるでもなく、田舎のハンパーブルクという町で、気ままな生活をおくっていた。

 その屋敷の廊下を、使用人がバタバタと走りまわっていた。
「大変だ! 旦那様がいなくなったぞー!」
 かれの声をきき、他の使用人たちが、わらわらとあらわれた。
 すると、ネッチモンドをさがしまわっていた別の男がやってきて、
「ミッチの奴も見当らないっ」
 といった。
 ミッチというのは、世捨て人のミッチモンドのことで、かれは毎日町をぶらつきながら、乞食生活を送っていたことだった。
 公園や橋のたもとで悠悠自適の生活をし、昼になるとあちこちを徘徊している。まわりの人間からは変人扱いされているが、ネッチとだけはどういうわけだかウマがあった。
 ふたりは、たびたび屋敷をぬけだしては、いろんな所へ出かけていく。
 世捨て人の乞食と、星一番の伯爵がいっしょなのが、なんとも変わったところだった。
「あの二人、連れ出すのがミッチならいいんだけど、さそっているのは旦那さまだからなぁ」
 鼻の下にひげをたくわえた男がこまったようにいった。
 でも、そこはやっぱり、平和な星に住む人たちだから、「そのうち戻ってくるだろう」
と、至極楽観的になって、おのおの部屋にもどって行った。
 この星の人たちは、いつもこんな感じなのである。

◇  シングルハット、石炭を食う

 広い銀河をたった一隻、ボブンボブンと煙をはきながら、ヨタヨタと漂うようにとんでいる船がある。
「じつにきれいな星だなー」
 虹の冒険号から銀河の星雲をながめ、ネッチモンド伯爵は、にこにこしながら言った。
 目とカミの色は黒で、伯爵の割りに、面立ちには目立った特徴がない。
「なに、わしの金歯よりは光っちゃいないさ」
 と、その隣で、ミッチモンドが、下アゴの二本の金歯をイーと見せた。
 顔の中央に、おおきなワシ鼻がドデンとおかれていて、落ちくぼんだ目は、黒々とひかっている。ミッチはネズミ色(もとはまっしろだった)の貫頭衣をすっぽりかぶって、腰のあたりをヒモでむすんでいる。
 世捨て人になってからは、すっかりうす汚れてしまって、どちらかというと、乞食になってしまった。
 この人は、ジジくさいしゃべり方が好きで、声もどちらかというと甲高いので、あまり正確な年令はわからない。ボウボウにのばした髪は灰色になっているが、年はネッチと変わらないはずである。
 シワがよってしんどそうだが、この人はまだ若いのだ。
「あいかわらず、その金歯だけは自満のようだねぇ」
 シルクハットに燕尾服、それと胸もとに蝶ネクタイをきちんと結んだネッチは、あきれたようにミッチを見下ろした。
「この金歯は特別なんだぞ」
 と、ネッチのあきれ顔にはまったく気づかず、ミッチは自満そうにいばりちらした。
 二人は、いつものように虹の冒険号という、存在自体が化石みたいな船で、あてどもない旅に出た。臆病者のくせに、冒険好きなかれらは、こうして気が向くたびに、冒険旅行に出るのである。
 その度にひどい目に合う。
 帰るつど、こんなことはもうやめようと思うのだが、時間が経つと、こわかったことも忘れて、またぞろ旅に出たくなる。
 今回もそうだった。いつのまにか連れだって、虹の冒険号を倉庫からひっぱりだし、夢中になって南の銀河をとびだしてきた。
 冒険は、かくも恐くて楽しいものなのだ。
 一本しかないエントツから、ボコンボコンと煙を吐くたびに、船はかすかに振動する。
「このボロ船も、ずいぶんとご機嫌じゃないか」
 ミッチが機嫌よさそうにうなずいていると、「ボロ船とはなんだっ。この虹の冒険号はな、私のひいひいひい、ひいおじいさまから乗り継いできた……」
「そんな前から乗ってんのか!」
 ネッチの講釈をきいて、ミッチの目玉は、ボヨンと飛びだしそうになった。
「そうだよ。なんとも愛着があっていいなぁ」
 ネッチは幸せそうに目をほそめた。
 ミッチは不幸せそうに顔をしかめ、「そういえば、ずいぶん古ぼけているもんなあ」と、少々感心したようにうなずいた。
「まぁ、いいじゃないか。こうして、銀河の旅を楽しめるのも、虹の冒険号のおかげだよ」
 ネッチは、後ろのかまどに、スコップで石炭を放りこみはじめた。
 虹の冒険号のエンジンは、なんと石炭で動くのだっ。
「その、石炭ってのが、なんとも不安なんだよなー」
 ミッチはうたがわしそうに、せっせと石炭をくべるネッチを、しみじみ見やった。
 木造の冒険号は、あちこちに木でつぎはぎが当てられている。おざなりな修復が、いかにも、「古いんです」と、主張しているかのようであった。
「はやく冒険にめぐりあいたいものだねぇ」
 ネッチは燕尾服を脱いで、カッター一枚になりながら、ひたいの汗をぐいとぬぐった。
「今回はすてきな冒険になりそうだ」
 ミッチがバネのとびだした椅子に、ドスンとすわりながら答えた。
 この間の冒険でひどい目にあったのに、二人はちっともこりていない。
「今度は東の銀河に行こう」
 ミッチが背もたれ越しにふりむくと、ネッチが奇声をはりあげた。
「ああ!?」
「どうした?」
 と、ミッチは怪訝な顔でふりむいた。
 ネッチはあきらかに動揺しながら、
「せ、石炭がなくなってるっ」
 と、悲鳴じみた声で答えた。
 見ると、星を出るときは、こんもりと山積みされていたはずの石炭が、今はほんの一山残すのみとなっている。ネッチのスコップで、一回すくえばそれで終りだ。
 これは大変なことになってしまった。虹の冒険号は石炭で動いているのだから、それがなくなっては広い宇宙をただようしかない。
 残っている石炭では、エンジンを一吹かししておしまいだろう。
 さすがのミッチも、しばし唖然となってしまった。
「見ろっ」
 と、ネッチがひとさし指をつきだした。
 石炭の山から、シッポがひょこんとつきでて、右に左にゆれている。
 ネッチがシッポをにぎって引きずりだした。すると、
「シングルハット!」
 と、ミッチがわめいた。
 ネッチの手の中で、宙ズリになって暴れているのは、白ネズミのシングルハットである。
「は、はなせっ」
 暴れるシングルハットに、ミッチは怒ってちかづいた。
「こいつー、よくも大事な石炭を食べたなー!」
「ミッチが悪いんだぞ、オイラにだまって冒険に出たんだからっ」
 今度はミッチに尻尾をつかまれながら、いたずらネズミのシングルハットは、すこしも悪怯れずに抗弁した。
 ミッチとシングルハットはいっしょに暮らしている。どうもシングルハットは、旅に連れてきてもらえなかったことを怒っているらしかった。
「石炭を食べることないだろう、この雑食ネズミっ」
 ミッチがツバをとばしてわめくと、
「いい気味だ。ミッチが悪いんだ。おいらをだました報いだ」
 シングルハットは、手足をジタバタさせてわめきかえした。
 虹の冒険号のエンジンが、ドカンドカンと、異様な音をたてはじめた。
 ネッチはあわてて残りの石炭をかまどにほうったが、虹の冒険号は木の葉のように揺れはじめた。
「まずいぞ、あの星に吸いよせられてる!」
 ミッチが、シングルハットの尻尾をつかんだまま、仰天して叫んだ。
 虹の冒険号の窓には、巨大な星が大写しになっている。
 石炭はなく、代わりになる燃料もなかった。
 エンジンは完全に停止し、ネッチたちは為す術なく、星に吸いこまれていった。

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