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ナーシェルと不思議な仲間たち

  • 2019年9月26日
  • 2020年2月24日
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ブリキの国

其の一 ブリキの国のゆううつ

 ブリキの国は木の葉の国の北にある、タイクン山を越えたところにあった。巨人や人食い鳥が住むことで、大変な難所として知られているが、ナーシェルたちはふうせん男爵の
力を借りて、どうにかこの山をのりきった。
 ブリキの国はまさしくブリキでできていた。家はもちろんブリキで、住んでいるひともブリキのにんぎょうなのである。
 まさに、木の葉の国とは正反対の国だった。木も草もブリキでつくられていて、にぶく光沢をはなっている。ここでは世界すべてがスズ色にそまっていた。
「おかしいなぁ」
 ナーシェルは、ブリキの国についてから、さかんに首をひねっていた。
 ブリキの国についたとたん、どしゃぶりの雨にみまわれたのである。雨はいっこうにやむことなく、なおもはげしさをまして、今につづいている。三人はフードのついたカッパをかぶり、雨をさけねばならなかった。
 ナーシェルがなにを不思議がっているのかというと、そもそもブリキというのは、錫をメッキしただけの、うすい鉄板なのである。だから、ブリキの国には雨なんてふらないし、水気のものは、コップ一杯にいたるまでいっさいなかった。
 花は風がふくたびに、ギーギーいやな音をたてている。すっかりサビついているのだ。
 ナーシェルはブリキの国に来たのははじめてだったが、話ぐらいはきいている。
「どうやら、ブリキの国にも、なにごとか起こったようだね」
 ナーシェルに話をきいたネッチが、まじめな顔をしてそんなことを言った。
 雨にうたれるブリキの町は、シンとしてしまっている。バラバラという、この国にはめずらしい雨音だけが、やけに耳についた。
 地面はぬかるんで、みずたまりが一筋の川となってながれている。
 ブリキの国の住人は家のなかにこもっているようだが、この湿気ぶりでは、やがてはサビてうごけなくなるにちがいない。
「おいら、ネズミでよかった」
 と、シングルハットはナーシェルのポケットのなかで、ふうせん男爵と大まじめにうなずきあった。
 雨のせいでサビてうごけなくなるのは、とてもかわいそうだが、それでもやっぱり、
(ブリキでなくて、よかったっ)
 とは、思うらしい。
 ドードー鳥は、水をはねつつ、かぽらかぽらと歩いていく。
 風もふかず、雨は垂直に落ちてくる。木の葉の国に降るようなからっとした雨ではない。ここでは服のすきまにまで、湿気がしのびこんでくる。いらいらしてくるような天気だった。
「あれはなんだろう?」
 ナーシェルは雨にけむる街道をすかしみた。
 しのつく雨のむこうに、何者かが腰をおろしている。
「ずいぶんおおきいなー」
 ネッチが小手をかざして感嘆した。
 そいつは、大きくなったふうせん男爵より、さらに巨大だった。道ばたにひとりですわりこんでいる。
 ここからではちょっと視界がわるくてどんな奴かはわからないが、肩をおとして、さびしそうにしているのだけはわかった。
「おい、やばいぞ。近づくのはやめようっ」
 とミッチがネッチの肩をたたいた。
 ふうせん男爵が、ポケットからひょいと顔をだし、「ブリキだ。あの男、ブリキでできてる」といった。
「あんなでかい奴に追いかけられたら、とても逃げられないぞ」
 ネッチがゴクリとのどを鳴らした。この一言で、みんなは少しふるえてしまった。
 シングルハットが、ひょこんとポケットから顔をだす。
「あいつ、あのままだとサビついちゃうぞ……」

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