勝負はつづけられた。
ネッチたちも二三度勝ったが、ダンカン側にはおよばない。
勝負がきまるごとに、見物人からどよっと歓声が上がるが、その叫び声はたいていダンカン側にむけられていた。
何回かくりかえすと、ナーシェルはすっかりやり方をおぼえてしまって、半分まできたころには、さかんに声を上げはじめた。
ネッチは最初から燕尾服をふりまわすし、ミッチとシングルハットはなかば踊りくるっている。
ネッチとミッチはポーカーなんてひさしぶりだったし、ナーシェルはこんなに熱中する遊びははじめてだった。負けるとどんどんトランプが減るというのがいい。
勝ち負けをわすれてポーカーをたのしんでいたから、気づいた時には、こちらのトランプ兵はほとんどのこっていなかった。
人質はちょびっとで、ダンカンの方にはたくさんいる。
「しまったっ」ネッチがひたいに手を当てくやしがった。「今からまきかえさないと間に合わないぞっ」
これにはナーシェルもすっかり仰天してしまった。
「本当だ。ずいぶん減ってるよ」
と自分のトランプ兵をみてさけんだ。
女王にまかされたとはいえ、ナーシェルもまだまだ子供である。
「まずい、このままではわしらのトランプ兵をとられてしまうぞ」
「なんだってぇ!」
ミッチとシングルハットもようやく慌てだした。
ダンカンはその様子をおかしそうにながめている。
とその時。ナーシェルたちの背後で声が上がった。
「あーあー、見てられねぇなぁ」
ナーシェルたちがふりむくと、そこにはひとりのトランプ兵が、こちらをむいて立っていた。
ルール違反になるっ、とネッチたちはひやりとしたが、そのトランプ兵には数字が書かれていなかった。
おどろいたことに、そいつの頭はただのまんまるで、おおきな口までついていた。周囲の目も気にせずに、頭のうしろで手をくんで立っている。
「なんだ、そのトランプ兵は!」
さすがのダンカンも、口をきくトランプ兵なんて見たことがなかった。
「おれはジョーカーさまよっ」
そいつはジョーカーと書かれた胸をたたいて、えらそーにいった。天使と死神をごたまぜにした絵がえがかれていた。
「こんな奴いたっけ?」
ネッチは、へんだな、という顔でミッチに問いかけた。
「さあ……」
と、ミッチも首をひねっている。
「こっそり後をついてきたのよ。女王の命令でな」
ジョーカーはにやりと笑って一同をみわたした。どうやら木の葉の女王の差し金らしい。
「さぁ、ここからさきはおれにまかせな! なんせおれっちはトランプの達人だからな!」
これは、トランプ本人が言うのだから、まちがいあるまい。無責任な見物客が、「わー」と大声で叫びたてた。まさにとどろかんばかりの嬌声だった。
「どうする、ダンカンさんよ」
ジョーカーは目も鼻もないくせに、口だけでわらってダンカンを挑発した。
「いいだろう。あいてがトランプなら不足はねぇ」
と、ダンカンも不適に笑いかえすのだった。