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ナーシェルと不思議な仲間たち

  • 2019年9月26日
  • 2020年2月24日
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其の八 地上へとつづく道

「チェス裁判? なんじゃそれは?」
 月の王が眉根をよせると、ネッチがおおきく、興奮したようにうなずいた。
「どちらがただしいかを審判するんですよ。話し合いの場をつくりましょうっ」
「話し合いだと?」
「そうです。太陽の王も月の王も、自分がただしいと思うなら、会ってそのことをいうべきです」
「なるほど、それはとてもいいっ」
 と快哉をあげたのはふうせん男爵であった。
「そうですよ。ふたりともはなれて相手の意見をきかないからいけないんですっ。会えばほんのすこしでも進展があるはずですっ」
 ふうせん男爵がりきむごとに、おおきな腹がぷるぷるゆれる。
「なにをいうかっ。月の王は地上になどいかんぞ」
 月うさぎたちが、つばをとばして反対するので、
「じゃまする者はきーるっ」
 トラゾーがまた刀と格闘をはじめた。
「まともにぬけないもんなー」
 ミッチが口をあんぐり開けてあきれている。
「裁判だ、裁判やるぞっ。みんなをあつめて裁判やるぞっ。わるいほうが負けだぁっ」
 シングルハットが興奮して手をふりまわした。
 しかし、月の王は気がうかないようすで、
「しかしなぁ、どうせ悪いのはあいつなんだし……」
「おやっ? 負けるのがこわいんですかね」
 と、ネッチがいじわるく笑った。
「な、なにを言うか!」
 月の王が真っ赤になってつめよると、
「これで白黒はっきりすれば、また太陽に照らされた地上がみれるんですよ」
 ネッチが半眼になって、さぐるようにそうきいた。
 すると、月の王はまた怒りはじめた。
「そうじゃ、あいつはわしへの意地悪で太陽をかくしおったのだっ」
「それはどっちもどっちなんじゃ……」
 これにはミッチたちまで半眼になった。
「王さまっ、裁判をやろうよっ。もとはとっても仲がよかったんでしょ。太陽の王さまはあなたのために地上をてらしてくれたんでしょ」
「うむ。あやつはわしのために地上に色をつけてくれた……だからわしはあやつのために、素敵な夜空をみせてやったのじゃ」
 ナーシェルの迫力におされ、王さまはモゴモゴと本心をはいた。
「太陽の王さまも、夜空を見たがってるんだろうなぁー」
「太陽の王さまと仲なおりをするチャンスかもしれませんよ。これをのがしたら、二度目はないかもしれない」
 ネッチたちが月の王をうまく話にのせた。
「ふん、あんなやつと仲なおりしようなどとはおもわんが……」
 月の王はぶつぶつ言っていたが、まぁいいだろうと顔をあげ、
「月うさぎたちよ、わしは地上にもどるぞっ」
 といった。
「王さま」
「地上への橋を設けよっ」
 月の王は、さっそうと命じるのであった。
 月の御殿から金色の橋が、ズウッと地上までつづいている。
「この橋をわたっていくんですかっ?」
 ナーシェルたちはおどろいてしまったが、よく考えるとふうせん男爵の気球はもどりにはつかえない。月の王についていくしかなかった。
「ううっ」
「王さまぁ」
 月うさぎたちが橋をかこんでさめざめと泣いている。
「月うさぎたちよ。後のことはまかせたぞよ」
 月の王はそういって、いきおいよく足をふみだした。
 ナーシェルたちが橋にあがると、急に地面がうごきだした。
「うわぁ」
 あわててバランスをとっていると、月の王がふりむいた。
「自動じゃ」
 だそうである。
「さようならあ」
 後ろで手をふる月うさぎたちが、どんどんちいさくなっていく。くろい豆粒になったかと思うと、月の黄色にとけていった。
 月うさぎたちは、きっと橋がえるまで手をふりつづけているにちがいない。そう思うと、ケンカをした月うさぎたちのことも、今はなつかしく思い出されるのであった。
 月の王とナーシェルたちを乗せた金色の橋は、きらきらきらときらめきながら、地上へむけてはしっていった。
「あっ」
 肩ごしにふりむいて、ナーシェルはおどろいた。
 ナーシェルたちがすすむごとに、うしろの橋は消えてなくなっている……。
 とても幻想的な光景で、ふわりとあたたかとした気分になった。
「月にきた甲斐があったな」
 トラゾーがそうつぶやいたが、みんなおなじ気持ちだった。

 地上でナーシェルたちの帰りを待ちわびていた太陽と月の国の住人らは、月からおりてきた金色の橋に、心臓がとびでるほどギックリしてしまった。
 そうこうするうち、月の王を連れたナーシェルたちが、暗やみをすべりおりてきたのである。
「おお、王さまっ」
「王さまっ」
 住人たちが口々に月の王を出むかえた。
 住人にかこまれる月の王を見て、「うまくいったようじゃな」得たりとわらうシドじいに、「それがそうでもないんですよ」ネッチたちは月でのいきさつをかたった。
「ふうむ。なるほどのぉ」
 シドじいは事情をきくと、さも納得したようにうなずいた。
「それはたいへんいい方法じゃな。しかし、太陽の王さまがくるかな?」
 とその点については難色をしめした。
「よし、俺たちがつれてこよう」
 これはシッカたちがひきうけた。
「んっ、では月の王には天文台にいてもらって、ほかの者は裁判の準備じゃっ」
「明かりがいりますね」
「国中のガス塔をあつめよう。さぁ、とりかかってくれ」
 シドじいが手をパンパン打合せると、みんなはそれぞれの準備にちっていった。
「おもしろくなってきたなぁ」
 不安げなナーシェルをよそに、ネッチとミッチはたがいにほくそ笑んでいた。
 こうして、太陽と月の国はおろか、周辺諸国までまきこんだ、チェス裁判がはじまった。

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