
序
その小さな家は、昔からわたしの住む町に建っていた。
大人たちは誰もその家を気にしなかった。目にとまることさえなかったように思うのだが、敏感なこどもたちはみんなその家をこわがっていた。とくに神社に神聖なものを感じたり、朝靄や夕暮れにきらめきを感じるようなこどもたちは。そうしたこどもたちは犬や猫の気持ちがなんとなくわかる。なにかの拍子には、目に見えない物が見えるようにもなる。なにか……きっかけさえあれば
わたしがその家の外観を最後に目にしてから、二十年ばかりがたった。そのあいだ、あの家が――あそこにいた人たちが頭をはなれたことは一度もない。だから、子供たちには教えた方がいいと思うのだ。力のある場所はどこにでもあるし、噂になるには、理由があると。
そんな場所には、近づかないほうがけんめいだ。
あの家
1
姫楠市の高蔵町には、いわくつきの物件がある。学校の通学路にあり、小学生たちは息をとめたり駆けぬけたりして対処していた。ホラーハウスとよんだり、お化け屋敷とよんだりしていた。その家に面した道まで、幽霊道路といわれる始末だ。
おもしろ半分ふざけ半分でそんな噂をしあっていたのだが、こどもたちのうちでも勘のいい子たちは本気でこわがっていたし、そういう子たちのうちでも、特に鋭い子たちはほんとうにつかまったりすることがあった。
金山祥輔もそんなうちの一人だった。

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