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ホラーハウス

     8

 こどもたちは用務員室のカップラーメンをあさってたべた。パッケージはどれも最近のものだ。
 祥輔はどのぐらいの部屋とつながってるのかと聞いた。太一は三つしか行ったことがないと言った。来てから日が浅いせいだろう。淳也と一郎は六つの部屋に出たことがある。武彦も六つしか知らなかった。
「六つ?」
 と彼は訊いた。ちょうど六つなのはおかしかった。ここにいたのは六人だからだ。
「あたしはもっと多いよ。八つか九つは知ってる」
 と日向子。美代子はもう少し多いようだった。
 祥輔は名簿をうけとってしらべてみた。名簿にはずっと以前のメンバーも載っていた。その子たちの名前の上には赤線で×がしてある。おまけにページの端には、小さな字で、死亡、と書かれていた。祥輔は数を数えるうちに恐ろしくなった。すでに四一名、それだけの数がここで死んでいる。
 祥輔は、二人の女の子にどの子とあったことがあるかを聞いた。日向子は八人、美代子はもう少し多くて十五人だった。
「この子たちがいたときに行けた部屋には今は行けないんだよね? 武彦だって、もっと前のメンバーにはあったことがない――」
 日向子がきたとき、美代子は別の子といた。その子は入れ替わりでつかまってしまったのだ。新入りを助けようとして、殺されてしまった。武彦は、登という子との入れ替わりだった。以来、幸運にも、看護婦長につかまったものはいない。ホラーハウスがこどもをたべているんだとしたら、いまごろうんと腹を空かせてるはずだ。
 祥輔がきて、七つ目の部屋が開いた。重要なのはそこだった。日向子と美代子が二人しかいなかったときは、二つの場所にしかいけなかったのだ。
「与えられる力はひとつずつだろ? じゃあ、行ける場所もひとつずつなのかもしれない」
「この学校は祥輔の場所なのか?」
 淳也が箸をとめた。彼らは食事もはやばやにおえて、学校の探索にのりだした。学校の様子はところどころでちがった。でもそれは祥輔の希望を反映した物でもあった。
 祥輔は、自分の考えをとなりにいた一郎に熱心に話した。
「これは現実の学校じゃない。でも、ぼくの学校だ。頭の中にある学校なのかも。つまり心の中なのかもしれない。だから、行ける範囲が広くなったり狭くなったりするんだよ。心が広いとかせまいとかいうだろ。だから――」
 祥輔は足をとめた。一郎が目をかがやかせて、わかったぞ、と言ったからだ。
「ぼくら七人目のメンバーがもらえるのは、超能力かなんかだと思ってた。でも、ちがうんだ。きっと考える力だよ」
「そんなの」と日向子はむくれた。役にたつとは思えなかったからだ。
「いや、役に立つよ、きっと。重要だよ。だっと、考える力――推理かな? それがあればホラーハウスのなぞもとけるじゃないか」
「でも誰が?」と淳也がなじるように言う。「誰がそんな力をくれるんだ?」
「死んだ子たちなのかも」
 言ってから、太一は身震いをした。女の子たちが悲しそうな顔をしたから、武彦は太一の肩に肘打ちをした。女の子たちだけは、その子たちに会っているのだ。
「ごめんよ、ぼく……」
「いいのよ」と日向子も太一にだけはやさしい。「でも、ここがどこなのかなんて意味があるのかな? だって、あたしたち、出ても行けないんだから」
 祥輔はうんとうなずいたきり、少しだまった。ある考えにとりつかれていたからだ。だれかがヒントをくれるみたいに、かれの頭はある考えをみちびきだしていた。
「看護婦長もカギを持ってるっていったよね。あの人も別の世界にいける。ぼくらの世界にもこれる――」
「世界って」と日向子が反発した。「それがただしいかなんてわかんないじゃん」
「推測だよ。これがほんとうだと仮定をして話をしてるんだ」
 日向子ははなじろんだし、武彦たちも顔をみあわせた。
「まるで先生みたいだな」
 と一郎が感心したようにめがねをおしあげる。みんな、なんとなく、祥輔の推理の力を信頼するようになっていた。こどもはこんな話し方をしない。それに祥輔ははじめにあったときより、どんどん雰囲気がかわっている。本人はそのことに気づいてないみたいだ。それで信憑性があったのだ。祥輔は自分をすこしもつくっちゃいない。
「ぼくらのもってる世界が一人一つと仮定しよう。それが正しいとすると、看護婦長も自分の世界をもってることになる。看護婦長の心の世界だ」
「でもなあ」と武彦は顔をくもらせる。「看護婦長の部屋にいけば、なにかヒントがあるっていいたいんだろ? でもぼくらはそんな部屋に行ったことがないよ。このカギでは、仲間の部屋いがいには行けないのかも」
「出てきた扉からなら?」
 と祥輔はいった。
「ぼくら屋上の扉から入ってきた。その扉はカギをつかわなくても、待合室につながってるかもしれない」
「でも、看護婦長が自分の部屋に戻ってきたらどうするのよ」
 日向子は青くなっている。美代子がきゅっとその手をつかんだ。
「美代ちゃんはどう思う? いつもみたいにいけないって思わない」
 と期待するみたいに聞いた。けれど、美代子は首を左右にふる。その顔はすこし紅潮しているみたいだった。
「いいアイディアだと思う。危険なの、わかってるけど、いけると思うんだ」
 祥輔はちからづよくうなずいた。
「屋上でためしてみよう。カギをつかわずに扉がひらくか、ためしてみるんだ。開いたら――開いたら、ここで看護婦長が追いかけてくるのをまつ。そんで二手にわかれて、看護婦長の世界にいく」
 日向子はすっかりとりみだして大声をだした。「わかれるなんてだめよ! せっかく七人そろったんだよ」
「でも、看護婦長をおびきよせる役目がいるんだ。大勢いないとあやしまれるから、看護婦長の世界にいくのは三人だ」
「そんなのうまくいかないよ」
 一郎まで青くなっている。
「カギはこの世界にのこったメンバーが持つ。そんで、なるべく別の世界にはいかないで欲しいんだ」
「なんでだ?」と武彦。
「ぼくらはカギをもってない。だから、戻ってくるには、同じ扉をつかって、この学校にくるしかない。でも、わかれたら、ぼくの部屋には、みんなは来られないかもしれない」
 日向子は、やっぱり危険だよ、と小声でいった。美代子も賛成はしなかった。
「お前はいくつもりなのか?」
 と武彦が聞いた。反対するというよりは、確認のために聞いているようだった。
「ぼくはいかないといけない。と思うんだ」そして、側頭部を人差し指でつつく。「さっきからすごいんだ。ホラーハウスに味方がいて、そいつらが協力してるのはまちがいない。だれなのかわかんないけど、とにかく考えがどんどんわいてくるんだ。これからホラーハウスの秘密をときあかせるかもしれない」
 みんなは恐怖のなかに希望をもった。祥輔のいうとおりかもしれない。七人目のメンバーには本当に期待できるのかもしれなかった。
「ぼくは武彦にもいってほしい。君は耳がいいから、危険を察知できるだろ。全員で行けるならそれでベストだけど、そうはいかないから。あとは、太一かな」
 この言葉にみんなは驚いた。太一はメンバーのなかでいちばんの弱虫だ。日向子よりも臆病者だった。でも、いちばんびっくりしたのは当の太一だったろう。その太一がうなずいて、行くと言ったから、みんなは二度びっくりした。落ち着いていたのは祥輔だけだった。
「決まりだ」
「決めるなよ。ぼくだっていけるぞ」と淳也はつよがった。自分の力が役に立たないみたいで、腹をたてたみたいだった。「それに、連れていくなら、美代ちゃんがいちばん頼りになるだろ? この子の直観はすごいんだぞ。はずれなんてない。ホラーハウスにずっといるから一番ちからがつよいんだ。みろよ」
 淳也は武彦のわきから名簿をうばった(この名簿というのも変わった代物だった。ひとりでに文字がうかびあがるし、だいたいだれが持ってきたものなのかやっぱり誰も知らなかった)。淳也は名前のはしっこにある○を指さした。太一は△、他のみんなはたいてい○だった。でも、美代子だけは◎だ。
「見ろよ」と淳也はその◎をたたいていった。「ぼくらこれが力のつよさをしめしてるんだと思う。ぼくも最初は△だった。時間がたつとかわるんだ」
 みんなは淳也の顔をみた。彼がひゅっと息をのんだのがわかったからだ。太一が、もう二重丸になってる、と祥輔の項目をみていった。
「美代ちゃんはこっちのメンバーに必要だ。誰かがつかまったら、意味ないだろ? 看護婦長から逃げるには必要なんだ」
「そんなにうまく逃げられるかな?」
 と一郎は不安だ。淳也も自分の重要さがわかった。ともすると、こちらがわの方が危険かもしれないのだ。
「あたしたち、別の世界にいっちゃいけないのね。この学校でみんなの帰りを待たなきゃいけない」
 と美代子がめずらしく自分から口をひらいた。これで決定的だった。淳也はすこし涙目になって、だけどうなずいた。祥輔はすこし感心した。だってかれはこの少年のことをかっこうつけのいやなやつだと思っていたからだ。でも、淳也だって、ホラーハウスで二年間も生き残ったれっきとしたメンバーなのだ。
「できるだけ粘ってほしい。でも、危険とみたら、カギをつかってくれていい」
「武器になるものをさがそう」
 武彦はさっそく消化器をみつけてひっぱってきた。「ここが心のなかだったとしてもさ。ラーメンが食えるんだから、消化器だってつかえるよな」
 武彦はじょうだんが言いたかったみたいだ。でも、その笑顔はとちゅうで凍りついてしまった。みんなこれまでいっしょだったメンバーがばらばらになるのを恐れているのだ。
「味方がなんなのかわからないけど、力をくれるなら利用しよう。協力して、看護婦長たちとたたかうんだ」

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