ファイヤーボーイズ

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あらすじ

 消防官の文吾は、異様な火災現場に遭遇する。火種もないのに、超高温にかした部屋。黒ずみと化した両親。
 そんななかで、汗ひとつかかずに立ち尽くす三歳の幼児。少年は両親に虐待を受け、ファイヤースターターの能力を開花させていた。
 文吾の目の前で、高橋は消防服の内側で生身を焼かれるという悲惨な死に方をしてしまう。文吾たち現場にいた消防官は、少年の力を疑うが、上司らは誰も信用しない。事件は未解決のまま、少年は親戚の家に引き取られる。
 文吾たちは少年の身元で事件が起きはしないかと注意を払うのだが。 そんな中、第二の火災という最悪の事態が勃発してしまう。 文吾たちは廃校で少年と対峙する。トランス状態と化した少年は、文吾らにも耳をかさず、攻撃をしかけてくる。消防官対ファイアースターターの戦いがはじまる。

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○   1

「文吾お。なんだこの申し送り書は!」
 長谷野辺出張時の所長、高橋は、書類を大きく振って、文吾をどやしつけた。
「なんだよ、おやっさん。ちゃんと書いてるだろ」
「書きゃいいってもんじゃないんだよ。書きゃいいってもんじゃ。こんな汚い字で書き殴りやがって。おまけに何だこの文章は? むずかしいことを書けなんて、一言も言ってねえだろう」
 文吾は、字の汚さまで攻められて口ごもった。
 高橋の階級は消防指令で、若い頃は、ホースをもたせれば、市局一といわれた。渋みの訊いた小男だが、怒ったときの迫力は誰にも負けない。向こう見ずの文吾が、火事場よりおそれる唯一の男である。結婚して二児の父だが、この頃娘の結婚話もあって、妙に涙もろくなっている。苦労が絶えないせいか、白髪も増えた。
「申し送り書なんて。消防官は、火を消すのが仕事だろ」
「ばかやろう」と高橋はなぐった。「口答えばっかりしやがって。火事を未然に防ぐために、おれたちの仕事はあるんだろうが」
「まあまあ、おやっさん。そのぐらいにしといてやれよ」
 宮田がとりなすように言う。キャリア三十年のベテラン消防官で、高橋との付き合いももっとも古くなった。酸いも甘いも知り尽くした、よき理解者である。自慢のひげは、火事場で焦がして剃ったばかりだ。所員の中でも、ずいぶんな古株となったが、体はまだまだ新品のつもりでいる。
「なあ、文吾。申し送り書だって、立派な仕事なんだよ」
「でもさ、一番重要なのは、やっぱり火を消すことでしょ」
 高橋は、まだ言ってやがるのか、という目つきだ。
「消火よりも、防災だよ」
「お前ももう成人したんだ。書き物ができなきゃ、りっぱな消防官じゃねえ」
 と高橋が口を出した。
「わかってますよ」
 と文吾は口ごもった。
 出張所は、ちょうど一部と二部の交代の時間である。仲間の視線が痛かった。
「文吾。いいか、出張所では、ともかくなあ、現場では……」
「上官の言うことに絶対服従。わかってますよ。これでも、消防学校でてんだから」
「どうだかなあ、このやろうめ」
 と高橋はため息をつき、宮田は肩をすくめた。

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