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河原の風は、いつものように涼やかだ。
包帯で、腕をつった文吾がいる。河川では、長谷野辺消防の第二小隊が、放水訓練を行っている。
文吾が人の気配に気づいて見上げると、駒野がいた。駒野は無言で、隣に腰をおろす。
二人は、しばらく、訓練を眺める。
二人の足下にはツクシが咲き、タンポポの群れがあちこちに見えた。こうして親父さんが死んでも、土手の景色は相変わらない。文吾は、なんだか、ありがたかった。
やがて、どちらともなく口火を切る。二人は、訓練の様子をからかう。ときおりは、笑い声をあげる。そして、少年のことを考える。
「あいつ、なんで正気に戻ったんだろうな」
と駒野はつぶやいた。
文吾はしばらく黙って考えた。
「あいつ、自分がやられたことを、他人にやってるってわかったんだよ。おっかねえ、助けてくれって、あいつはいつも思ったんだろうな」
「そうか」
と駒野は嘆息した。
文吾は首を垂れた。あーあ、とおおげさに頭をかいた。
「やつぱりおれは、スーパーヒーローなんかじゃねえよ」ため息をつく。「おっかなくてふるえてただけだもんな」
駒野がほほえんだ。「おまえは、スーパーヒーローだよ。おれを助けてくれたろう」
文吾はクシャリとなった。「ばかやろう……」