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高橋の葬儀は、三日後に執り行われた。多くの消防官と、報道関係者が集まっていた。病院での会話が、あちこちに伝わっているのか、文吾たちは注目のまとになった。
遺体のない葬儀で、満足な別れもできなかった。
葬儀の後、文吾は、小池、駒野といっしょに河原に向かった。何度も放水訓練をおこなった場所である。
いい天気だが、テニスコートにも、サッカー場にも人がない。
文吾たちは土手にすわり、しばらく黙ったままでいた。宮田は、脊髄を損傷し、下半身不随だそうだ。
駒野が、「謹慎も終わりだな」とつぶやいた。「補充員が来るらしいぜ。所長には大野さんがなるってよ」
「哲朗って子は、どうなるんだろうな?」
小池が訊いた。
「火災現場もずいぶん調べたみたいだけど、結局火の出た理由はわかんないらしいぜ」
「殺人じゃなかったのか?」
「鑑識のしようがないんだと。遺体が、もう、灰に近い状態だったし、骨まで燃えてたろ? 警察はまだ疑ってるみたいだけどな」
小池の口調は、どこか人ごとのようになっていた。
「文吾、まだ疑ってんのか?」
「わかんねえよ。なんで、おやっさんが死んだのか、でも、おれは、あのガキの目が忘れられないんだよな」
駒野は、念力発火について、いろいろと調べたようだった。消防官なだけに、もともと、そうした現象に興味があった。だが、しょせんは映画や小説の出来事で、現実のこととは思えなかった。数日たった今では、信じることすら、難しい……。
「現場についたとき、あの子の様子はたしかに尋常じゃなかったんだ。でも、念力で火がついたなんて話、しらふじゃ考えらんねえよな」
「ファイアースターターか。スティーブン・キングの小説じゃないんだ」
駒野は自分の言葉を、バカにするようにつぶやいた。
だが、三人ともが、腑に落ちないのは確かだ。知識や理性が、念力発火を否定しているのに、状況証拠だけは、やまと残っているのである。
小池が言った。「もし、だぞ。もし、可能性として、あの子にそんなことができたとするよな。その場合、事件はまた起こると思うか?」
三人は顔を見合わせた。
「ばからしい。お前、そんなこと言ってると、そのうち懲戒免職くうぞ」
文吾が言うと、二人は首をすくめた。
「なんで、よりによって。おやっさんが死んじまったんだろうな」
文吾はわざと明るく言ったのだが、声がしけって、いけなかった。
駒野が立ち上がった。
「おい。宮田さんに会いに行こうぜ。もう面会できるかもよ」