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浮幽士 司馬

 これを書いたのは、十代後半だったんでしょうか?
 ワープロのおかげで原稿が残っております。スララで書いたんですかね。メーカーも思い出せませんが、パソコン用にデータを変換する機能がついておりまして、おかげで原稿が残っております。

 皇兄を殺害した父を追い、師匠の鉄斎とともに別界にやってきた主人公李玄。が、汪豹はおもいのほか、手強く……一体宮廷術士であった父の身に、なにがあったのか……

司馬李玄……主人公。霊術がつかえない特異体質
司馬鳳仙……鉄斎らのあとをおい、別界に登場
鉄斎……李玄の師
汪豹……李玄の父
デュナン……李玄の契約霊

その一 別界の浮幽士

   1

「司馬どの、司馬どの……」
 自らの口が、自らの名を呼んでいる……。
 森の景色が目に飛びこんできた。その景色は急速に後ろへ流れていた。
 ほんの寸前まで気絶していたというのに、李玄の渾身は猛烈に動いて鞭のように地を蹴っている。
「デュナンか?」
 と李玄は自らの口をつかい呼びかける。
 契約霊のデュナンが李玄の体を借りて、汪豹のこもる洞穴から命からがら逃げ出してきたところだった。
 デュナンは気絶した鉄斎をしっかりと背負ってきたようだ。
 いつものことだが、デュナンが入ると、李玄は金縛りにあったように感じる。
 彼は遮断された目玉に意識をつなげて、ギョロギョロと動かし周囲を見た。
「デュナン、ここはどこだ?」
「まだ後山を出ておりませぬ。早くこの場を離れねば」
 とすると、気絶してさほど経っていないようだった。デュナンは口を使わずとも李玄と意志を通じ合わすことが出来た(一つの体を共有しているのだから当然だが)。が、利口な彼は司馬の意識を保つために体を使うことに決めたようだ。
 李玄は鉄斎の体が重く背にのしかかるのを感じた。霊力のほとんどを使い果たし、仮死状態とかしている。ときおり鉄斎の体を揺すって名を呼んだ。
「師匠、死んだらだめだ。一緒に本界に帰るんだ」
 李玄は、父上を連れて、という言葉を飲みこむ。
 その父が、息子の李玄と、師である鉄斎を迷いもなく殺そうとしたのだ。
 5年ぶりにあった父親に殺され掛かったことで、李玄の心は深く傷ついていた。
 膨大な霊力をもつ李玄の体は、汪豹(おうひょう)に受けた裂傷もどんどん回復していった。攻撃は師匠以上に喰らったが、見た目ほどの重傷ではない。
 今は鉄斎が死んでしまわないか心配だった。八十才を越える五体はなんとも軽い。
 一方、汪豹は40代の壮年である。正面から戦うこと自体に無理があったのだ。鉄斎は、口ではなんと言おうと弟子を殺すつもりなど、なかったのだから。
「ちくしょう、俺に霊術が使えたら」
「そう申しますな。あの場から逃げられたのは、司馬殿なればこそですぞ」
「お前のおかげだよ、デュナン……」
 李玄は背後に首を回す。デュナンは霊体だから、首が後ろを向こうが、視界に支障はない。
 後山は、三人の霊力合戦で、地形まで変わり果てている。別界の住人がくれば、すぐに騒ぎになるだろう。
「デュナン、父上はどうした?」
 と李玄は言った。今は体が一人でに走るのに身を任せている。
「デュナン、きかせてくれ。お前は父上を殺したのか?」
「霊術使いを剣で倒せとは、奇っ怪な……」
 とデュナンは言った。だが、李玄が意識を失う寸前、鉄斎は霊術を仕掛けていたはずである。岩石の牢獄に汪豹を閉じこめたのだ。霊力を喪失した鉄斎が、汪豹の手を逃れることができたのは、汪豹もまた動けぬ身であったからだった。
「司馬殿は父上の死を望んでおられない。だから拙者は逃げ申した」
「ありがとう……デュナン」
 と言ったきり、李玄は疲れ果て、再び意識を無くした。デュナンは鉄斎を(正確には李玄をも)連れて、後山を後にした。

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