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デュナンは玄武に見つからぬよう、李玄の体を抜け出した。その体には禁縛術が大穴をあけている。まるで真っ黒な刻印だ。幽体の彼はたちまち霊力を吸い取られていく、薄まってしまった。デュナンは腹に焼き付いた法陣を引きはがそうとするが、皮が伸びるように幽体が伸びるばかり。李玄は待ってろと声にならぬ声を発し、腹部にあいた大穴をおさえながらヨタヨタと立ち上がる。
デュナン、こっちにこい
声に出したつもりだったが、それは喉の奥でかすかになる風の音に過ぎなかった。李玄は悲鳴を上げてもがくデュナンに近づき、掌を霊力で固めると、法陣に指をかけた。そのとき、デュナンが暴れ、彼の体も左にふられた。片足で着地をすると、新たな激痛が総身を貫いた。
「でゅ、デュナン……」今度は声が出た。「待ってろ、デュナン」
ほとんど真下に倒れ込むようにして(事実そのとおりだったが)、法陣を引っぺがした。右肩から路面に崩れ落ちる。法陣もまた霊霧を上げながら床に貼りつき、奇怪な焼け焦げを残して消えた。
――司馬殿
デュナンが李玄の顔をのぞきこむ。
「デュナン……すまない。お前を消滅させるところだった」
舌がうまく回らない。思ったより、手ひどくやられた。霊力で傷をふがなければ死んでしまうかもしれない。李玄は激痛のあまり震えながら、いやだめだ、とかんがえる。霊力を温存しないと。まだあいつをやっつけたわけじゃない。
「デュナン、手を貸してくれ」
デュナンを取り憑かせることはもうできなかった。それだけで霊力を消耗するし、デュナン自体が危険な状態だ。
二人はともにフラフラと立ち上がると、かすむ目で鳳仙の隠れている方角を見つめた。ここがどの辺りか、もう冷静な判断ができなかった。李玄は足を引きずりながら歩き始めた。