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浮幽士 司馬

   17

 司馬殿……司馬殿――
 誰かが自分を呼んでいる。李玄は痛みのなかで目を覚ます。もう腹部は麻痺して鈍痛しか感じない。どうやらこれでおしまいらしい。
 彼は師匠を成仏させたあとも、死というものがよくわかっていなかった。霊魂になるのか、それともデュナンのようにこの世に残るんだろうかと思った。できれば、あの世に生きたい、この世はもうたくさんだ。あの世に行って故人になった人たちに――母や鉄斎に会いたかった。けれど、デュナンは李玄の名を呼び続けている。
 重い目蓋を開くと、引き裂かれた屋根の向こうに青空が見えた。彼の虚ろな瞳には激しすぎる光である。李玄は物に埋もれて立てない。ただ、デュナン以外の誰かが自分を見おろしているのが見えた。視力はどんどん弱まっていき、すぐにその姿も見えなくなったが。
 李玄が意識をなくすと、デュナンは彼を守るようにしてその霊体との合間に立った。異国人のデュナンには男の正体はつかめなかった。
 ――契約霊がいたか。
 男は幽体の顔をゆがめて冷笑している。
 ――小僧に伝えろ。今回はあなどったが、次はこうはいかぬ
 ――お主は何者だ。玄武ではないのか
 男は答えなかった。デュナンに背を向けると、たちまち姿を消してしまった。

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