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浮幽士 司馬

   10

 鳳仙を外に出したのは、浮幽術との関わりを持たせぬための配慮だった。
「我々で玄武を仕留めるのだ。鳳仙も腕は立つ。しかし、実戦にはなれてはおらん」
「でも、師匠。俺では足手まといにしかなりません」
「そういうな」と鉄斎は嘆息した。白髪がかすかに揺れた。「お主にはすまぬことをした。浮幽士の術を会得していたとなれば、お主はもう司馬の里に入られぬかもしれん」
「師匠」と李玄は鼻を赤くしてうつむいた。「いいんです。俺、納得して修行したし、霊術がちょっとでも使えたときはすごく嬉しかった。師匠には感謝してます」
 鉄斎はうなずく。「三人で力を合わせて玄武を倒すんじゃ。デュナンはいるか」
「側に」
「わしも霊魂の仲間いりじゃな」
「師匠」
 鉄斎は首をわずかに傾けて李玄をみた。「お主は素直でいいやつだ。術に長けるよりもずっと大切なことだ。自分の特質を見失うな。鳳仙を守ってやれ」
「霊術はあいつのほうがうまいのに。俺じゃああいつに守られてしまいますよ」
 鉄斎は李玄の二の腕を叩いて注意を引いた。
「お主は他人に劣ってなどいない。大成するのに時間のかかる者もいる。成長は人それぞれなのだ。だが、お主が懸命に努力しておったことをわしは知っておる。これまでめげずによくやったのう」
「師匠……」
 李玄は顔をおおってめそめそと泣いた。師匠は彼を叱らなかった。
「お主達を残して死ぬのは残念だ。が、里のために、身を捨てる覚悟はできている。汪豹を捕らえた後は奴を本界に連れて帰れ。里を救え」
 李玄はこくりとうなずいた。

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