ファイヤーボーイズ

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   6

 宮田は病室にいた。家族は幸いに、外出をしていない。消防官たちがもちよった見舞いの品が、部屋のあちこちにあふれている。宮田は、入ってきた若いのをみて、いやになつかしそうにほほえんだ。そんな表情の一つ一つがいじらしく、文吾たちは、宮田の引退を悲しんだ。力なく横たわる姿をみて、ああ、もう動けないんだな、と悟った。
 文吾たちは、宮田になら、思う存分、自分たちの考えを話すことができた。宮田なら、そんな幼稚な考えですら笑わないだろうし、なによりも宮田自身が大けがを負っているのだ。
「市局長が悩んでたぞ。お前らを怒鳴って悪かったってよ」
「もう怒ってないんですか」
「怒っちゃいない。でもな、おやっさんが死んで動転したのは、二宮さんだっておんなじなんだよ」宮田が腹を撫でていった。「俺の体、腹の中が焼けてたらしい。公表はできないんだが……」
 宮田は意味ありげに三人をみた。しゃべるな、と言っているのだ。
「消防官二〇年やって、こんなこと、はじめてだ。だけどな、お前らの言うとおりだったとしたら、気をつけろ」
「やっぱりあの子が……」
「おやっさんなら、敵をうてなんていわねえよ。あれが、誰かの放火にしろ、あの子がつけたにしろ、助けてやれっていうはずだ」
「もし、放火犯がいるんなら、あの子がねらわれるってことですか?」
 宮田はうなずいた。「あの子は犯人をみたかもしれない」
 文吾たちは顔を見合わせた。そんなふうには誰も考えてこなかったのだ。
 文吾だけはそんな宮田の考えを否定した。あのときの哲朗の目を見た。宮田とておなじだ。そんな文吾の気持ちを読み取ったかのように、宮田はうなずいた。
 文吾は言った。「目が合ったとき、あいつは意識がないみたいだった。そうでなきゃ、五歳のガキにあんな目つきは無理ですよ」
「あの子はいま、親戚の家にいる」宮田は言った。「これは公表されていないことだ。二宮さんがおれにだけ話したんだ。上本町にいる」
「管轄外ですね」
「お前らのそばじゃ、あの子も不安だろう」
 と宮田は笑った。
 宮田は窓の外を見た。やがて振り向いた。
「文吾、お前、あの子をはってろ。お前らだから、あの子の居場所を話すんだ。忘れるな、あの子は要救助者なんだ。想像どおりだとしたら、また事件は起こるぞ」

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