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ナーシェルと不思議な仲間たち

  • 2019年9月26日
  • 2020年2月24日
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其の三 雨水の城へ

 ナーシェルたちはドームのわきにあるちいさな納屋に逃げこんだ。
「わっ、わっ」
 ふうせん男爵が、扉に、みるからにもたつく手で閂をかけた。
「どうしよう。このままじゃこおらされてしまうぞっ」
 ミッチが、青い顔で納屋を入ったり来たりしている。
「うわぁ」
 壁ぎわにいたネッチが、悲鳴を上げてしりもちをついた。
 窓ガラスに、雪鬼たちがびっしりとはりついているのだ。
「のぉがぁさぁん」
 二本角がめだまをぎょろつかせる。ネッチは腰をぬかしてその場にへたりこんでしまった。
「ドードー」
 ナーシェルはすっかりおびえて、いっしょに逃げてきたドードー鳥の首にかじりついた。
「こっちもだっ」
 雪鬼たちは戸口にもまわって、さかんに体をとびらにぶつけてくる。ふうせん男爵が体をふくらませ、とびらをドシンとふさいだ。
「かこまれちゃったよ」
 ナーシェルが眉をしかめて泣きべそをかいた。
「こんなときに、あのみずたまりがあったらなぁ」
 ネッチの独り言に、「みずたまり?」とミッチが問いかえした。
「ほら、雨水国で、ひかるみずたまりにとびこんで、雨水の城までいっきに移動したじゃないか」
「そんなものここにあるもんかっ」
 ミッチがおこって罵声をあげた。
 すると、トラゾーが、
「いやっ、ちょっとまて」
 といって、自分の腰に腕をまわした。
「これじゃっ」
 トラゾーがひっぱりだしたのは、あの竹の水筒である。
「それが、いったいなんだってんだっ」
 おこるシングルハットを手で制し、
「わしはこの水筒にみずたまりの水を汲んでおいたのじゃ」と説明した。
「本当っ?」
 ナーシェルが少しかん高い声で問いかけた。
「はっはっはっ。こんなこともあろうかと思って、わざわざ仕込んでおいたのじゃよぉ」
 トラゾーは鼻高々にわらったが、シングルハットはそれはウソだとおもっていた。
「でも、水筒なんかにいれてしまって、大丈夫かな?」
 ネッチがつぶやいている間に、トラゾーは水筒の中身を床にぶちまけてしまった。
「やっぱり……」
 ネッチの不安どおり、水筒の中身はただの水にかわっていて、あの時のように輝いたりはしていなかった。
 トラゾーは床にひろがったタダの水をみつめ、「もうダメじゃ!」とわめいた。
 雪鬼たちが納屋に体をぶつける音がする。「このままじゃ、窓が割れてしまうぞ」
 ネッチがじりじりと下がってきた。ふうせん男爵も、戸をささえるのをあきらめて、ドスドスとこちらに近づいてくる。
 ナーシェルたちはひとところに固まりながら、なすすべなく立ちすくんだ。
 窓はとりついた雪鬼たちのせいで、いまにも割れてしまいそうだった。納屋をたたく音が、しだいにおおきくなる。うえから埃がぱらぱら落ちてきた。
「このままじゃ納屋ごとつぶされるっ」
 とネッチが金切り声をはり上げた。
「「キャンディーはいやだぁ!」」
 ミッチとシングルハットが同時にわめいた。
「雨水の城へ、雨水の城へ行きたぁいっ」
 やけになったナーシェルが、床をはげしくたたいてさけんだ。
 すると、透明だった水が、黄金色にかがやきはじめたではないかっ。
「とびこむんだ!」
 ネッチがいちはやく快哉を上げた。
「さあ、ナーシェル公はやくっ」
 トラゾーにいざなわれ、まずナーシェルとドードー鳥がとびこんだ。
「大変だぁ」
 ミッチと、頭にのったシングルハットが大声でわめいた。
 窓ガラスにヒビがはいり、そのすきまから雪鬼たちがはいりこもうとしているっ。
「逃ぃがぁすもぉんかぁっ」
 二本角が、腹の底からにじみでるような声でいった。
「はやくにげよう!」
 ネッチがかんばしった声をはり上げる。
「ぶおん、はいらなぁい」
 見ると、みずたまりがちいさすぎて、ふうせん男爵のふとった体が、とちゅうで穴にひっかかっている。
「ヘソ蓋をぬけ、ふうせん男爵っ。体をちぢませるんだ」
 ネッチがさかんに声をかけるも、ふうせん男爵のふとった腕は、ヘソ蓋までとどかない。
「なにやってんだっ」
 はしりよったシングルハットが、ヘソ蓋を口にくわえてひきぬいた。
 ふうせん男爵の体からすごい勢いで空気がぬけ、みるみる体はちぢんでいった。
 男爵がみずたまりに消えた瞬間、窓がワレて、雪鬼たちがなだれこんできた。
「ひぃええ」
 残ったネッチたちは、あわててみずたまりに身をおどらせた。

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