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ナーシェルと不思議な仲間たち

  • 2019年9月26日
  • 2020年2月24日
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 それからの勝負はまことにすさまじかった。
 自らトランプの達人というだけあって、ジョーカーはなかなかつよい。
 ダンカンも箱をふりまわして一歩もひかず、勝負は一進一退をくりかえした。
「こっちは赤のフラッシュだ!」
「なんのこっちはフォーカード!」
 とまぁ、互いにゆずらないから、盛り上がること。
 ナーシェルたちも声を枯らしてわめきたてたが、とうとう十回目の勝負がおわり、二枚のカードがのこってしまった。
 ジョーカーの巻返しのおかげで、人質の数はおなじである。
「どうするんだ? カードが足りない」
 ネッチのつぶやきとともに、あつまった見物人もざわめきはじめた。二枚でするポーカーなんて聞いたことがない。
「あわてるな、こういう場合は、のこった二枚に、勝負をすませた三枚をくわえて勝負するのよ」とダンカンは、人質にとったトランプ兵を指で指した。「三枚はこの中から選ぶんだ。ただし、のこった二枚はさきに見ていい」
 と、ダンカンがおちついた声で説明した。
 ジョーカーを見ると、しきりにうなずいているから、ルールにいつわりはなさそうだ。
「よし、最後は慎重にえらぼう」
 ネッチたちは顔をつきあわせて討議をはじめた。
 ジョーカーはのこった二枚に顔をむけて、
「こりゃあいつらの数字にかかってるな」
 といった。
「のこった数字はなんだろう?」
 ナーシェルは今まで出た数字をけんめいに思いだそうとするが、勝負に夢中になりすぎて、さっぱり覚えていなかった。
 心臓がバクバクして、いても立ってもいられない。落ち着いているのはジョーカーだけだ。
「ままよ、どうにかならぁなっ。おい出てこいっ」
 と、のこった二枚を手もとに呼ぶ。
 向こうはすでに見たようで、野次馬がわーわーわめいている。
 ナーシェルたちは、トランプ兵のうしろにまわって裏に書かれた数字を読んだ。
「うおっ」
「こいつはっ」
「2のクラブと9のクローバーだ……」
 ナーシェルがつぶやいた。
「なんだ、こりゃ。ろくなもんじゃねぇ」
 と、ジョーカーが地団駄をふむ。
「どうしよう。フラッシュをねらおうか?」
 ネッチがささやくと、
「だめだな。見なよあいつのツラを」
 ジョーカーがうしろをさした。
 ダンカンはいかにも自信ありげに、こちらの出方をうかがっている。
「あれはいいのが残ってるとみた」
 なんにしろ、フラッシュをねらって、ダメだったときのドボンがこわい。
「二枚そろっているとか?」
 と、ナーシェル。見物人がしきりにさわぐので、ろくに考えることもできやしない。
「こっちも大きいのをねらおうっ」
 ミッチとシングルハットが力説した。
「しかし、こいつらじゃなあ」
 ジョーカーはどうしようもないと言いたげに、のこったトランプ兵に視線をくれた。
「とにかくえらぼうよ。勝てるかもしれないんだ」
 ナーシェルが率先していうと、
「うん、ちげぇねぇ」
 と、ジョーカーも気をとりなおしてヒザを打った。
「向こうより大きければいいんだけなんだ。べつにロイヤルストレートフラッシュをだそうというわけじゃない」
「いいこと言うねぇ」
 と、ネッチとジョーカーはすっかり意気投合してしまっている。
「もういいか?」
 ダンカンがにやにや笑って問いかけてきた。
「いいともっ」
 と、こちらの腹もすわっている。
「ならべ!」
 ダンカンがさけぶと、両軍入りみだれたトランプ兵が、わさわさとならびはじめた。
 ダンカンは、じっくりこちらのトランプ兵を見ていたが、
「そいつとそいつとそいつだ」
 意外にあっさり選んでしまったから、これにはナーシェルたちの方があわててしまった。
「どうしよう。はやくえらばなきゃっ」
「おちつけぇ、慌てることはねぇ」
 そういうジョーカーも、顔ではずいぶん焦っている。
 ナーシェルたちは、長いこと、あーだこーだと言い合った。
 結果、五十枚のトランプ兵のうち、三名が厳選された。
「最後は目をつぶって、相手のカードだけを見ることにしようじゃねぇか」
「いいだろう」
 と、ダンカンの申し出をジョーカーが堂々と受けとめたので、ナーシェルはひょっとしたら勝てるかもしれないと希望がわいた。
 一同は、たがいに目をとじあった。
 トランプ兵が、わきを、
 ワサワサ
 と、通りすぎる音がする。
 ナーシェルは緊張のあまり頭がどうにかなってしまいそうだった。
「もういいかぁ」
 まずダンカンの声がした。
「もういいよぉっ」
 つぎに見物人がいっせいに答えた。
「サン、ハイ!」
 とジョーカーが言って、ナーシェルたちは目をあけた。
 そのとたん、ネッチたちは凍りついてしまった。
 フォーカード……。
 ダンカンはダダッと自分のトランプの前にまわりこみ、トランプ兵の肩をいせいよくたたいた。
「ジャーン。またまたフォーカードォ」
 言わずもがなのことを言った。
「こっちはっ」
 ナーシェルたちはいっせいに駆けだし、自軍のトランプたちの前にまわった。
「ああっ!」
 と、ミッチが悲鳴を上げた。
「なんでやぁ!!」
 さしものジョーカーが苦悶している。
 カードはフラッシュどころか、一枚もそろっていなかった。
 ドボン、である。
「おれだって最初はカスだったのよ」
 ダンカンが得意満面で鼻をのばした。
「くそ、あの顔にだまされた!」
 ミッチとナーシェルは歯を食いしばって悔しがった。ネッチとシングルハットは、呆然と自分たちのカードの前で立ち尽くしている。
「やべぇっ、俺っちは逃げるぜ」
 ジョーカーは片手を上げると、逃げにかかったが、
「あまいっ!」
 ダンカンが手にした箱のふたを開けると、あっというまもなくそのなかに吸いこまれてしまった。
 ダンカンはもうひとつ箱をとりだすと、自分のトランプ兵をしまいこみ、
「これは勝負だ。わるくおもうなよ」
 といった。
「女王さまのトランプ兵が……」
 ナーシェルは暗然とつぶやいた。

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