其の七 イカサマ師はどちら
ナーシェルから話をきいた月の王は、うーんとうなったきり、腕をくんでなにもいわなくなった。
「王さま、素直に太陽の王さまにあやまってくださいよ」
ネッチがたのみこむと、
「なにをいうか、もとはといえば、太陽の王がチェスの駒に細工をしたのが発端なのだぞっ。わしからおれたりするものかっ」
と大喝したので、
「あれ、へんだな。太陽の王さまもおなじことを言っていたよ」
ミッチがはてと小首をかしげた。
「なにっ?」と月の王はおどろいた。「そんなはずはない。イカサマをしたのはあっちの
方じゃっ」
ネッチたちはなんともこまって視線をかわした。
おたがいがおたがいをイカサマだと言っている。いったいどちらを信じたらいいのだろう。
「ひょとしてさ……」ミッチはネッチにささやいた。「両方イカサマしたんじゃないかな?」
それをきいて、ネッチはうなずきながらこたえた。
「そうかもしれない」
ふうせん男爵はむずがゆそうにはらをブルブルっとふるわせ、
「なんともみょうな話だなぁ」といった。
月の王は太陽の王をイカサマ師だとののしり、むこうからあやまらないかぎり自分はゆるさないし、月をもとにもどしたりもしないと言いはった。
「太陽の王とおなじことをいっとるぞ……」
「説得はむりなんじゃない」
トラゾーとシングルハットが互いの耳にささやいている。
「そんなこといわずに、太陽の王さまと仲なおりをしてよ」
ナーシェルが月の王にすがりついた。
「いやじゃ、あんな奴とはぜったいに仲なおりなんかするものか!」
月の王がその手をふりはらい、ナーシェルはしりもちをついた。
ナーシェルの鼻の頭がみるみるうちに赤くなり、目にはなみだが一杯たまってしまった。意固地になった王さまは気づきもしない。
「おのれ、ナーシェル公になにをするかっ」
トラゾーがおこって柄に手をかけたが、ふんふんいうばかりでちっともぬけない。
王さまがさめきった視線を向けると、
「「もういい!」」
ミッチとシングルハットが同時にさけんだ。トラゾーと月の王は同時にびっくりした。
「それってわしのこと?」
自分をゆびさすトラゾーを無視し、ミッチは肩をそびやかした。
「こうなったらどっちがわるいか、はっきり白黒をつけようじゃないか!」
とさけんだ。
「どうやって?」
ナーシェルが眉をしかめると、
「わしらのほし──故郷には、面とむかって口論できる場所がある」
ネッチがあっと声をあげた。
「そうかっ」
「チェス裁判だっ」
シングルハットがおもしろがってわめいた