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ナーシェルと不思議な仲間たち

  • 2019年9月26日
  • 2020年2月24日
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其の七 ふうせん男爵、仲間になる

「ありがとう。でも、なんで封書を盗んだりしたの?」
 封書を受けとりながら、ナーシェルがきいた。
「女王さまが、わたしをたよってくれなかったから……ごめんよ、ナーシェル
 あやまる男爵に、
「封書はいいからオイラをもとにもどせっ」
 と、シングルハットが横から口をはさんだ。
「そうだ、ぼくの耳っ」
「わしの髪」
「わたしの腕もだ」
 四人はめいめい盗られたものを口にして、ふうせん男爵につめよった。
「はいはい、わかりましたよ」
 男爵はめんどくさそうに言って、ナーシェルたちに盗んだものをかえした。
 シングルハットは前歯がもどって大喜びだし、ミッチもカミの感触をしきりにたしかめている。
 ネッチにいたっては腕をぬすまれていたのだから、その喜びようといったらたいへんなものだった。
 なにせ物も持てなかったのである。おかげでドードー鳥にのったときも、その鞍から何度となくころげおちてしまった。
 シングルハットは、男爵とおなじ方法で体をもとにもどし、(もっとも、ミッチのいたずらで空気をいれすぎ、一時はふうせんのようになってしまったのだけれど)今はナーシェルのポケットで一息ついている。
「男爵、もうぬすんだりわるいことをしてはダメだよ。女王さまが男爵をたよらなかったのは、きっと男爵がわるいことをしていたからだとおもうよ」
「うん、わかったよナーシェル」
 と、ふうせん男爵は気味がわるいほどおとなしくなってしまった。
 ミッチたちは、空気といっしょになにか妙なものでもはいったかな、とうたがった。
「どうしたの、男爵?」
 気のやさしいナーシェルは、すこし心配になってたずねてみた。
 男爵は、なにやらおもいつめた表情で顔をあげると、
「ナーシェル。わたしもブリキの国へつれていってくれっ」
 と、きりだしたから、ナーシェルたちはすっかり動転してしまった。
 男爵はどろぼうだし、これからブリキの王にだって会わなきゃならない。それに、よけいな人をつれていったりしたら、木の葉の女王はなんというだろう。
「たのむよ、ナーシェルっ」
「で、でも……」
 ナーシェルがとまどっていると、
「おねがいだよ、もう物をとったりしない。わたしを冒険の仲間にくわえてくれっ」
 ふうせん男爵ははっしと諸手をついて土下座をした。
「ほう、きみは冒険が好きなのか?」
 おもしろそうにきくネッチに、
「もちろんっ。わたしは春になったら偏西風にのって、木の葉の国中を旅するんだ……」
 と、男爵はべらべら旅の模様をかたりはじめた……。
 空からみえる、木の葉の国の景色のすばらしさや、そこでくらすひとびとの生活のしぶり。南にさく草花のうつくしさ、北国ではわたり鳥といっしょに、風にふかれてあそぶこと……。
 それはとてもいい話で、ナーシェルたちはいつのまにかふうせん男爵の話にききいっていた。こんなステキな旅をする人といっしょに、冒険ができたらすばらしいだろうな、とみんなはおもった。
 ナーシェルは立ち上がって、手をさしだした。
「いいよ。ほんとうはトランプ兵がいなくなって、不安になってたんだ。一緒に行こうよ」
「ほんとうかい!」
 男爵はナーシェルの手をとって、じつにうれしそうに快哉を上げた。
 ナーシェルが同意をもとめると、
「わたしはかまわないよ。旅は道づれ世はなさけというしね」
 と、ネッチは器用に片目をつぶって答えた。
 ミッチも、「ふんまぁいいだろう」といい、シングルハットは、「いっとくが、お前はドードー鳥には乗れないぞ」といったから、男爵はさっとヘソのふたをひきぬいた。
「あ、お、おいっ」
 ネッチたちがどもっている間に、男爵の体からはどんどん空気がぬけ、ついにはシングルハットぐらいの大きさになってしまった。
「さっきはしわくちゃになったのに……」
 ナーシェルがおどろいていると、
「このヘソ蓋は不思議なんだ」
 と男爵がこたえ、
「不思議なのはお前だろ」
 と、シングルハットがつけたした。
 それから、五人はさきほどまでのけんかをすっかり忘れて、おおいに笑いあった。
 ナーシェルのひだりのポケットには、シングルハットがはいり、みぎのポケットは、ふうせん男爵がねぐらときめこんでしまった。
 つぎの日の夕刻、ナーシェルたちはブリキの国についた。

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