其の七 ふうせん男爵、仲間になる
「ありがとう。でも、なんで封書を盗んだりしたの?」
封書を受けとりながら、ナーシェルがきいた。
「女王さまが、わたしをたよってくれなかったから……ごめんよ、ナーシェル
あやまる男爵に、
「封書はいいからオイラをもとにもどせっ」
と、シングルハットが横から口をはさんだ。
「そうだ、ぼくの耳っ」
「わしの髪」
「わたしの腕もだ」
四人はめいめい盗られたものを口にして、ふうせん男爵につめよった。
「はいはい、わかりましたよ」
男爵はめんどくさそうに言って、ナーシェルたちに盗んだものをかえした。
シングルハットは前歯がもどって大喜びだし、ミッチもカミの感触をしきりにたしかめている。
ネッチにいたっては腕をぬすまれていたのだから、その喜びようといったらたいへんなものだった。
なにせ物も持てなかったのである。おかげでドードー鳥にのったときも、その鞍から何度となくころげおちてしまった。
シングルハットは、男爵とおなじ方法で体をもとにもどし、(もっとも、ミッチのいたずらで空気をいれすぎ、一時はふうせんのようになってしまったのだけれど)今はナーシェルのポケットで一息ついている。
「男爵、もうぬすんだりわるいことをしてはダメだよ。女王さまが男爵をたよらなかったのは、きっと男爵がわるいことをしていたからだとおもうよ」
「うん、わかったよナーシェル」
と、ふうせん男爵は気味がわるいほどおとなしくなってしまった。
ミッチたちは、空気といっしょになにか妙なものでもはいったかな、とうたがった。
「どうしたの、男爵?」
気のやさしいナーシェルは、すこし心配になってたずねてみた。
男爵は、なにやらおもいつめた表情で顔をあげると、
「ナーシェル。わたしもブリキの国へつれていってくれっ」
と、きりだしたから、ナーシェルたちはすっかり動転してしまった。
男爵はどろぼうだし、これからブリキの王にだって会わなきゃならない。それに、よけいな人をつれていったりしたら、木の葉の女王はなんというだろう。
「たのむよ、ナーシェルっ」
「で、でも……」
ナーシェルがとまどっていると、
「おねがいだよ、もう物をとったりしない。わたしを冒険の仲間にくわえてくれっ」
ふうせん男爵ははっしと諸手をついて土下座をした。
「ほう、きみは冒険が好きなのか?」
おもしろそうにきくネッチに、
「もちろんっ。わたしは春になったら偏西風にのって、木の葉の国中を旅するんだ……」
と、男爵はべらべら旅の模様をかたりはじめた……。
空からみえる、木の葉の国の景色のすばらしさや、そこでくらすひとびとの生活のしぶり。南にさく草花のうつくしさ、北国ではわたり鳥といっしょに、風にふかれてあそぶこと……。
それはとてもいい話で、ナーシェルたちはいつのまにかふうせん男爵の話にききいっていた。こんなステキな旅をする人といっしょに、冒険ができたらすばらしいだろうな、とみんなはおもった。
ナーシェルは立ち上がって、手をさしだした。
「いいよ。ほんとうはトランプ兵がいなくなって、不安になってたんだ。一緒に行こうよ」
「ほんとうかい!」
男爵はナーシェルの手をとって、じつにうれしそうに快哉を上げた。
ナーシェルが同意をもとめると、
「わたしはかまわないよ。旅は道づれ世はなさけというしね」
と、ネッチは器用に片目をつぶって答えた。
ミッチも、「ふんまぁいいだろう」といい、シングルハットは、「いっとくが、お前はドードー鳥には乗れないぞ」といったから、男爵はさっとヘソのふたをひきぬいた。
「あ、お、おいっ」
ネッチたちがどもっている間に、男爵の体からはどんどん空気がぬけ、ついにはシングルハットぐらいの大きさになってしまった。
「さっきはしわくちゃになったのに……」
ナーシェルがおどろいていると、
「このヘソ蓋は不思議なんだ」
と男爵がこたえ、
「不思議なのはお前だろ」
と、シングルハットがつけたした。
それから、五人はさきほどまでのけんかをすっかり忘れて、おおいに笑いあった。
ナーシェルのひだりのポケットには、シングルハットがはいり、みぎのポケットは、ふうせん男爵がねぐらときめこんでしまった。
つぎの日の夕刻、ナーシェルたちはブリキの国についた。