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ナーシェルと不思議な仲間たち

  • 2019年9月26日
  • 2020年2月24日
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 ナーシェルはとても見ていられなかった。
 王さまはうごくたびにギーギー音をたてるのである。動作もかんまんで、このままほうっておいたら、ブリキの王はいつかうごけなくなってしまうにちがいない。かわいそうだな、と思った。
 とある扉の前で、王さまはたちどまった。
 番兵が、体をぎーぎーいわせながら敬礼をする。
「とびらをあけよ」
 王さまが片腕をさっと水平にふると、番兵がいそいで、(もっとも体についたサビのせいで、とてもいそいでいるようには見えないのだが)扉を左右に押しひらいた。
「見なさい」ブリキの王はうしろにある九十九個のストーブをしめした。「あれが花と草木のストーブじゃ」
 あっ……とナーシェルたちはおどろいた。花と草木のストーブは、こんなにたくさんあったのだ。
「手前のあの」ブリキの王は指をのばした。
「あのストーブだけが火をともしている」
 たしかに、ひとつだけあかあかと火をおこしている、ストーブがある。
「なぜのこりのストーブには火をつけてくれないのっ」
 とがめるようにさけぶナーシェルを、ブリキの王はかなしげにゆれる瞳でみつめていた。が、やがて、
「ブリキの国に大量にあった石炭を、雪と氷の女王にこおらされてしまったのだ」
 といった。
「ええーっ!?」
 ナーシェルたちは、仰天のあまりカチコチに硬直してしまった。それは、雪と氷の女王にこおらされてしまったようだと、ブリキの王はおもった。
「そ、それでは、石炭はもうないんですか?」
 すっかりうろたえているネッチに、
「うむ。残ったわずかな石炭で、あのストーブの火だけはたやさぬようにしているのだ。しかし、それもいつまでもつか……」
 王さまはため息とともに、首をかるく左右にふった。
 ネッチたちは残らずこけた。
「あの最後のストーブがきえてしまうと、木の葉の国の草木はすべて枯れはて、荒涼とした大地のみになってしまうことじゃろう」
 ブリキの王は心からつらそうに言った。
 ナーシェルは、石炭が雪と氷の女王にこおらされたと知っておどろいたけれど、ブリキの王が女王との約束をやぶったわけではないと知って、内心ひどくよろこんでいた。
「雪と氷の女王に、石炭の氷をとかしてもらえば……」
「むろん、そうなればストーブたちは息を吹きかえすじゃろう」
 その言葉をきいて、ネッチたちははね起きたが、
「でも、このままだと、王さまたちはサビついてうごけなくなってしまうんだね」
 ナーシェルの暗澹たる言葉に、また肩をおとした。
「なぜ雪と氷の女王は、石炭をこおらせてしまったんです?」
「わからん。ただでさえ降りつづく雨でそとに出れんのに、雪と氷の国は万年雪におおわれているのだ」
「それではこの雨がやんでも、女王には会えない」
 問いかけるミッチに、王さまはゆっくりとうなずいた。
 ネッチとシングルハットは頭をかかえてしまった。虹の冒険号は、もう二度ととべなくなってしまったのだ。
 ふうせん男爵は、ナーシェルのポケットのなかで、ゴクリと唾をのみくだした。
 ナーシェルは決意した表情で、ブリキの王をみあげた。
「わかりました。ぼく、雨水の国に行って、雨をとめてもらいます。その上で雪と氷の女王にあって、石炭の氷をとかしてもらいます」
「ナーシェル?!」
 ネッチとミッチは仰天してさけんだ。ナーシェルはかんたんに言ったが、この旅は口でいうよりずっと困難でつらいにちがいない。
「だって、このままだと木の葉の国は枯れ果ててしまうんだよ。雪と氷の女王に石炭をとかしてもらっても、雨が降りつづけば、王さまやバッカスたちはうごけなくなってしまう……」
 ナーシェルはふるえる唇をかみしめ、つかえつかえしながら言い終えた。
「ナーシェル……」
「えらいぞ、ナーシェル。それでいいんだ」
 シングルハットはポケットの中でしきりにうんうんやっている。
 ブリキの王はナーシェルの手を包むようにしてとった。
「ありがとう。これでわが国も──ひいては木の葉の国も救われるだろう」
「どこまでやれるかわからないけど、ぼくやってみます」
 と、ナーシェルはたのもしく言い切るのだった。
 ミッチとネッチは無言で視線をかわした。
「ええい、どうせやらなきゃ、虹の冒険号は動かないんだ!」
 ミッチは半ばやけくそになってさけんだ。
 ネッチも大きくうなずき、
「これこそ真の冒険じゃないか。こんなおおきな冒険はまたとないぞ、ミッチっ」
「名を上げるチャンスだな、ネッチっ」
 もりあがる二人をポケットからのぞかせた目でながめながら、シングルハットはつぶやいた。
「あーあ」

 後にのこった石炭は、もって一週間が限度だという。しかも、燃えているストーブはたったひとつ……。
 南ではどんどん枯れが進むだろうし、ブリキの国にもサビがひろがっている。
 ナーシェルたちはいそがなければならなくなった。雨水の王にあって、ブリキの国にふる雨をとめてもらわなければならない。
 ナーシェルは、ふいにどうしてこんなことになってしまったんだろうと考えた。どの国もとても仲がよかったのに、いまでは理由もつげずに相手をこまらせている。
「これは雨水の王へのわたしの気持ちだ」
 そういって、王さまはブリキのオモチャをナーシェルに手わたした。
「でも……」
 と、ナーシェルは口ごもった。おとなの雨水の王さまが、オモチャなんかで喜ぶだろうかとおもったのだ。
 その気持ちをさっして、ブリキの王がいった。
「いいのだ。心のこもった贈り物は、ひとの心をうつはずだよ。それはわたしの雨水の王にたいする気持ちなのだ」
 ブリキの王はじっとナーシェルの目をのぞきこんだ。
 雨はまだ降りやまない。
 ナーシェルは、だまってオモチャを、べつのポケットにしまいこんだ……。

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