ネッチたちは自分たちの部屋にもどるなり、ドアをしめ、厳重にカギをかけた。
「にげよう、こんな屋敷!」
大急ぎでもとの服に着がえると、荷物をひっかきあつめて、ふろしきがわりにじゅうたんでつつんだ。トラゾーじいさんが、それを首にひっかつぐ。
ネッチたちは次から次へとカーテンをひきはがし、端と端をむすびだした。これをロープがわりに窓からにげるつもりだった。
ふうせん男爵が窓をあけると、暴風雨が部屋になだれこんできた。わきにいたナーシェルは、わっぷわっぷと息もできない。
木はきしみ、枝がおれとんだ。豪雨は風においたてられ、雨雲は稲妻にこげている。この国にきたときより、ひどくなっているようだった。
部屋中の火がふっと消えた。シーツオバケたちが壁をすりぬけ、ローソクの火をふきけしたのだ。
「う、うあ、うわぁ」
ネッチとミッチはなさけない声を上げつつ、大いそぎでカーテンを窓枠にくくりつけた。
その間も、シーツオバケはネッチたちの体にまとわりつき、
「どこ行くのぉ、どこ行くのぉ」
ときいてくる。
「ほっといてくれ!」
ネッチが怒ってシーツオバケをけとばした。
「降りよう」
カーテンロープはちょうどの長さで、下にたらすと先っちょが地面についた。
ネッチたちは窓枠を乗りこえると、カーテンにしがみつき、壁づたいに降りはじめた。
ナーシェルにトラゾー、ネッチにミッチの順だ。
「うわぁ!」
壁からスリヌケオバケが顔をだし、シーツオバケが後を追ってとんでくる。
ナーシェルたちは泣きべそをかいて、ひっしに腕をうごかした。
「この、この、このっ」
ふうせん男爵が、風にあおられ、ふわりふわりとまいながらシーツオバケをおっぱらう。
「ああ、よせ、バカ!」
ミッチの頭に乗っているシングルハットが、上になにやらさけんでいる。
ミッチが顔を上げると、ナイフ男がロープをきろうとしているところだった。
「う、うわあっ」
四人はあわをくってけんめいに手足をうごかすが、ナイフ男はそれよりはやく、カーテンをぶつりときっていた。
「ここの屋敷はいいところぉ。とっても楽しくとってもおかしい、ゆかいだゆかいだああきちがいだぁ♪」
地面にたたきつけられ、ドロまみれになってもがいているナーシェルたちの頭上で、シーツオバケがでたらめなうたをうたっている。
「うるさい、だまれ!」
ミッチが片手をふりあげると、ひだりの角からルリー公爵夫人と家政婦長が、屋敷中の人間をひきいて走ってきた。
五人は肝をとばして、からみついたカーテンをはねのけると、立ち上がって遁走した。