キウイたちに連れられたナーシェルたちは、こおった森や川を横切り、やがてなだらか
な丘陵地帯にでた。
ナーシェルの手をひいたキウイがたちどまり、下をホッホッとゆびさした。
雪をかぶった雑木林がひろがっているだけで、なにもないように見える。みんなはよわってトラゾーの顔をあおいだ。
「ホーホホホ」
「ふーん。地面に穴をほった住居があるといっとるな」
トラゾーが感心したように言った。たしかに地下の住居というのはあたたかそうだ。
「ホホッ」
「ホホッ」
どこかへ消えていたキウイたちが、おおきな布を頭上にかかげて戻ってきた。
「ま、まさか、それですべり降りるのか」
ネッチがおどろいたようにたずねると、キウイたちは楽しそうにうなずいた。
「みんないっしょに乗ってかっ」
またうなずく。
「冗談じゃない!」
シングルハットが、ナーシェルの胸もとでわめいた。
「わたしは、えんりょするよ。このとおり図体がでかいし」
「じゃあ、ころがっていくんだな」
しり込みする男爵の背中を、ミッチは無情にけとばしてやった。
ふうせん男爵は、丘を雪玉のようになってころげていった。
「うわあああああああっ」
ふうせん男爵の悲鳴が、雪原にしみわたる。
男爵はたっぷりころがったあと、木にぶつかってようやく停止した。
「わしらも行こう」
トラゾーは大刀を鞘ごと腰からぬくと、キウイが敷いた布のうえに、ドシリと腰をおろした。
「やっはっはっ」
ミッチがもみ手をしながら後につづいた。
「こういうことは好きなんだもんなー」
ネッチが呆れ果てながらもとなりにすわる。
「ほんとにやるのー」
しぶるナーシェルも、キウイたちに急かされてはしかたがない。
「大丈夫だ、ナーシェル。おいらがついてる」
「うん……」
シングルハットなどあまり頼りにはならないのだが、ナーシェルはとりあえずうなずいた。
キウイたちがそのまわりにすわって、足をオールがわりにして布をこぎはじめた。
ナーシェルは首をのばして行く手をのぞきみた。丘はずいぶん急にみえる。下からふうせん男爵が手をふってよこした。
ネッチとナーシェルはドキドキしたが、元来こういうことが好きなミッチとトラゾーは胸を躍らせているようだ。
「ホホ」
「ホッホ」
キウイたちが最後のひと押しをすると、ナーシェルたちをのせたスノーボードは滑降をはじめた。
最初のうちはやけにのんびりしていたが、徐々に速度を上げていく。
ナーシェルははじめはこれなら大丈夫だとおもったが、スノーボードはしだいに早くなり、やがては弾丸のような速さになった。
「うわああ!」
「ひえおーい!」
布はときおり右に左にぶれながら、一直線に下降していく。
デコボコがあるたびにはねるのだが、そこはキウイたちがうまくバランスをとって、けっしてころばない。そのことがわかると、ナーシェルはだんだんと楽しくなってきた。スノーボードはドードー鳥よりはやくて、ずっとスリルがあった。風が顔にあたってはじけていく。左右の景色がドンドンながれ、前方の森がグングンせまる。
ふところから顔を出しているシングルハットは、「おー、おー、おーっ」とばかり言っている。
「すごいやっ」
ナーシェルはすっかり有頂天になって、自分もキウイたちに合わせてバランスをとった。そのため、スノーボードはますますはやくなる。
「うわっ、はははははっ」とよろこんでいたネッチだが、下に雪の壁があるのをみて不審におもった。「ね、ねえ、ミッチ。あれはなにかな?」
ミッチもネッチの言うほうに視線をくれた。トラゾーも気づいたようで、三人はいちどきにあおくなった。
「あ、あれをつかって止まる気かっ?」
「方向をかえろおー!」
かわったりしない。
ナーシェルたちを乗せた雪滑り号は、雪の壁に激突した。
上にのっていたキウイとナーシェルたちは、豪快にふっとばされて、降りつもった雪につっこんだ。
ナーシェルたちは全身をうってうなっているが、キウイたちはキャッキャッとよろこんでいる。
「ねぇ、いつもこんなふうに止まるの?」
ナーシェルがきくと、そのとおりだとそばのキウイがうなずいた。
派手に飛んだところで、毛におおわれているキウイたちは、ケガなんてしないのだろう。
はしゃいでいる姿が、いかにも楽しげで、怒る気もうせてしまった。
「ミッチもころがった方がよかったんじゃないのか?」
ミッチにけりおとされたふうせん男爵が、意地わるそうに尋ねてきた。
「次からはそうするよ!」
とミッチはどなった。
キウイたちの住みかは、そこからすこしばかり離れたところにあった。
なかに雪がはいらないように工夫をこらした穴があって、そこを降りると横穴がつづいていた。
ナーシェルたちは、ドードー鳥を木板にのせて下におろした。
「ホッホッホッ」
なかにいたキウイたちが手伝ってくれる。
トラゾーが、「キウイ族の住みかは、雪と氷の国中に縦横無尽にのびていて、そこら中に入り口がある。じゃから、入り口をひとつさえ知っていれば、どのキウイにも会えるんじゃ」とおしえてくれた。
洞穴は天井がひくく、ふうせん男爵は体をちいさくせねばはいれなかった。
もっとも、こどものナーシェルにはちょうどよく、ネッチとミッチは腰をかがめておけば問題ない。いちばん苦労したのが、トラゾーだった。
通路はゆるやかな傾斜がついていて、しだいに下にさがっていく。そこをぬけると、広間に出た。
大人二人分の高さが悠にあり、トラゾーたちはぐっと腰をのばすことができた。
奥行もあり、他に四つほどの通路が見える。さすがに地下はあたたかだった。
「ようやく来たね。まっていたよ」
奥からしゃがれた声がひびいてきた。キウイたちの住みかで、ちゃんとした言葉がきけるとは思っていなかったので、ナーシェルたちはびっくりした。
進みでてきたのはまっ白なキウイである。女性で、かなりの高齢らしかった。
そのキウイは、
「あたしゃマチルダだ。よろしくな」
といった。
「あなたはしゃべれるんですか?」
ネッチが疑問を口にすると、マチルダばあさんは、
「当然だよ。あたしゃキウイのなかでも長生きでね」
とこたえた。
ミッチたちは、これはもう、うっかりしたことはしゃべれないな、とおもった。
「いったい何才なんだ」
ミッチがきくと、マチルダばあさんは目をむいて、
「女に年をたずねる奴があるか!」
と、どなった。
「おばあさん、それよりドードーの病気をなおして」
ナーシェルがマチルダの腕にとりすがった。
マチルダは、わかっているというふうにうなずいて、木板のうえのドードー鳥にちかづいた。そして、
「これは霜降り病じゃな」
マチルダばあさんはしばらくドードー鳥をジロジロみた後、ナーシェルたちにそう告げた。
「なおる?」
泣きだしそうなナーシェルに、マチルダばあさんは安心しろという風にうなずいてみせた。
「ヒマシユを飲ませればすぐによくなるわい。さて、わしの部屋で話でもしようか。ドードー鳥のことは心配するな。この者たちに任せておけばよい」
マチルダが言うと、まわりにいるキウイたちがにいっと笑った。
◇閑話休題
面目ない。三度目ですが。
ナーシェルたちはキウイ族に助けられ、雪と氷の城にたどり着くことができます。女王と対面する事になるのですが、この女王が大変怖い人で……。
物語は、雪と氷の城にて、ミッチたちが女王の魔法に追いつめられるところから始まります。