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ナーシェルと不思議な仲間たち

  • 2019年9月26日
  • 2020年2月24日
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 キウイたちに連れられたナーシェルたちは、こおった森や川を横切り、やがてなだらか
な丘陵地帯にでた。
 ナーシェルの手をひいたキウイがたちどまり、下をホッホッとゆびさした。
 雪をかぶった雑木林がひろがっているだけで、なにもないように見える。みんなはよわってトラゾーの顔をあおいだ。
「ホーホホホ」
「ふーん。地面に穴をほった住居があるといっとるな」
 トラゾーが感心したように言った。たしかに地下の住居というのはあたたかそうだ。
「ホホッ」
「ホホッ」
 どこかへ消えていたキウイたちが、おおきな布を頭上にかかげて戻ってきた。
「ま、まさか、それですべり降りるのか」
 ネッチがおどろいたようにたずねると、キウイたちは楽しそうにうなずいた。
「みんないっしょに乗ってかっ」
 またうなずく。
「冗談じゃない!」
 シングルハットが、ナーシェルの胸もとでわめいた。
「わたしは、えんりょするよ。このとおり図体がでかいし」
「じゃあ、ころがっていくんだな」
 しり込みする男爵の背中を、ミッチは無情にけとばしてやった。
 ふうせん男爵は、丘を雪玉のようになってころげていった。
「うわあああああああっ」
 ふうせん男爵の悲鳴が、雪原にしみわたる。
 男爵はたっぷりころがったあと、木にぶつかってようやく停止した。
「わしらも行こう」
 トラゾーは大刀を鞘ごと腰からぬくと、キウイが敷いた布のうえに、ドシリと腰をおろした。
「やっはっはっ」
 ミッチがもみ手をしながら後につづいた。
「こういうことは好きなんだもんなー」
 ネッチが呆れ果てながらもとなりにすわる。
「ほんとにやるのー」
 しぶるナーシェルも、キウイたちに急かされてはしかたがない。
「大丈夫だ、ナーシェル。おいらがついてる」
「うん……」
 シングルハットなどあまり頼りにはならないのだが、ナーシェルはとりあえずうなずいた。
 キウイたちがそのまわりにすわって、足をオールがわりにして布をこぎはじめた。
 ナーシェルは首をのばして行く手をのぞきみた。丘はずいぶん急にみえる。下からふうせん男爵が手をふってよこした。
 ネッチとナーシェルはドキドキしたが、元来こういうことが好きなミッチとトラゾーは胸を躍らせているようだ。
「ホホ」
「ホッホ」
 キウイたちが最後のひと押しをすると、ナーシェルたちをのせたスノーボードは滑降をはじめた。
 最初のうちはやけにのんびりしていたが、徐々に速度を上げていく。
 ナーシェルははじめはこれなら大丈夫だとおもったが、スノーボードはしだいに早くなり、やがては弾丸のような速さになった。
「うわああ!」
「ひえおーい!」
 布はときおり右に左にぶれながら、一直線に下降していく。
 デコボコがあるたびにはねるのだが、そこはキウイたちがうまくバランスをとって、けっしてころばない。そのことがわかると、ナーシェルはだんだんと楽しくなってきた。スノーボードはドードー鳥よりはやくて、ずっとスリルがあった。風が顔にあたってはじけていく。左右の景色がドンドンながれ、前方の森がグングンせまる。
 ふところから顔を出しているシングルハットは、「おー、おー、おーっ」とばかり言っている。
「すごいやっ」
 ナーシェルはすっかり有頂天になって、自分もキウイたちに合わせてバランスをとった。そのため、スノーボードはますますはやくなる。
「うわっ、はははははっ」とよろこんでいたネッチだが、下に雪の壁があるのをみて不審におもった。「ね、ねえ、ミッチ。あれはなにかな?」
 ミッチもネッチの言うほうに視線をくれた。トラゾーも気づいたようで、三人はいちどきにあおくなった。
「あ、あれをつかって止まる気かっ?」
「方向をかえろおー!」
 かわったりしない。
 ナーシェルたちを乗せた雪滑り号は、雪の壁に激突した。
 上にのっていたキウイとナーシェルたちは、豪快にふっとばされて、降りつもった雪につっこんだ。
 ナーシェルたちは全身をうってうなっているが、キウイたちはキャッキャッとよろこんでいる。
「ねぇ、いつもこんなふうに止まるの?」
 ナーシェルがきくと、そのとおりだとそばのキウイがうなずいた。
 派手に飛んだところで、毛におおわれているキウイたちは、ケガなんてしないのだろう。
 はしゃいでいる姿が、いかにも楽しげで、怒る気もうせてしまった。
「ミッチもころがった方がよかったんじゃないのか?」
 ミッチにけりおとされたふうせん男爵が、意地わるそうに尋ねてきた。
「次からはそうするよ!」
 とミッチはどなった。

 キウイたちの住みかは、そこからすこしばかり離れたところにあった。
 なかに雪がはいらないように工夫をこらした穴があって、そこを降りると横穴がつづいていた。
 ナーシェルたちは、ドードー鳥を木板にのせて下におろした。
「ホッホッホッ」
 なかにいたキウイたちが手伝ってくれる。
 トラゾーが、「キウイ族の住みかは、雪と氷の国中に縦横無尽にのびていて、そこら中に入り口がある。じゃから、入り口をひとつさえ知っていれば、どのキウイにも会えるんじゃ」とおしえてくれた。
 洞穴は天井がひくく、ふうせん男爵は体をちいさくせねばはいれなかった。
 もっとも、こどものナーシェルにはちょうどよく、ネッチとミッチは腰をかがめておけば問題ない。いちばん苦労したのが、トラゾーだった。
 通路はゆるやかな傾斜がついていて、しだいに下にさがっていく。そこをぬけると、広間に出た。
 大人二人分の高さが悠にあり、トラゾーたちはぐっと腰をのばすことができた。
 奥行もあり、他に四つほどの通路が見える。さすがに地下はあたたかだった。
「ようやく来たね。まっていたよ」
 奥からしゃがれた声がひびいてきた。キウイたちの住みかで、ちゃんとした言葉がきけるとは思っていなかったので、ナーシェルたちはびっくりした。
 進みでてきたのはまっ白なキウイである。女性で、かなりの高齢らしかった。
 そのキウイは、
「あたしゃマチルダだ。よろしくな」
 といった。
「あなたはしゃべれるんですか?」
 ネッチが疑問を口にすると、マチルダばあさんは、
「当然だよ。あたしゃキウイのなかでも長生きでね」
 とこたえた。
 ミッチたちは、これはもう、うっかりしたことはしゃべれないな、とおもった。
「いったい何才なんだ」
 ミッチがきくと、マチルダばあさんは目をむいて、
「女に年をたずねる奴があるか!」
 と、どなった。
「おばあさん、それよりドードーの病気をなおして」
 ナーシェルがマチルダの腕にとりすがった。
 マチルダは、わかっているというふうにうなずいて、木板のうえのドードー鳥にちかづいた。そして、
「これは霜降り病じゃな」
 マチルダばあさんはしばらくドードー鳥をジロジロみた後、ナーシェルたちにそう告げた。
「なおる?」
 泣きだしそうなナーシェルに、マチルダばあさんは安心しろという風にうなずいてみせた。
「ヒマシユを飲ませればすぐによくなるわい。さて、わしの部屋で話でもしようか。ドードー鳥のことは心配するな。この者たちに任せておけばよい」
 マチルダが言うと、まわりにいるキウイたちがにいっと笑った。

◇閑話休題

 面目ない。三度目ですが。
 ナーシェルたちはキウイ族に助けられ、雪と氷の城にたどり着くことができます。女王と対面する事になるのですが、この女王が大変怖い人で……。
 物語は、雪と氷の城にて、ミッチたちが女王の魔法に追いつめられるところから始まります。

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