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ナーシェルと不思議な仲間たち

  • 2019年9月26日
  • 2020年2月24日
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其の七 きちがい料理をお食べなさい

「飯だぁ! ろくでなしどもー! 飯だぁー!」
 つかれきった表情でかたづけをしていたところに、家政婦長のガラ声がひびいてきた。
 ナーシェルたちはやれやれと顔をみあわせ、声の聞こえる方に歩いていった。
 あんな目にあっても、腹はへるものらしい。
 ナーシェルたちがつれてこられたのは、くらくてジメジメした台所だった。
 かまどではなにやらあやしげなスープがぐつぐつと煮たっている。
 家政婦長はあいかわらず怒気もあらわに、ナーシェルたちを部屋におしこみ、むりやり席にすわらせた。
「そら、飯だよ」
 とスープを皿にぶっかけ、ナーシェルたちの前にどんとおいていく。
 それはかわったスープだった。硫黄のにおいがする。表面には目玉をギョロつかせた魚のあたまがプカプカういている。
「これはなんだ……」
 ミッチがトラゾーの脇腹を指でつついた。
「知らん……みたこともない」
 トラゾーはゴクリとつばをのみこんだ。
 ネッチは皿に顔をちかづけにおいをかぎ、
「食えるんですか?」ときいた。すでに敬語である。
 家政婦長は冷厳とこたえた。
「死にたかったら、食ってみな」
 すでに食っていたふうせん男爵は、口のなかのスープをふきだした。
「ゲーホゲホゲホッ」
「「そんな物食わせるなぁ!」」
 ミッチとトラゾーがテーブルをひっくりかえした。
「いやならいいさ、今晩はメシぬきだ」
 家政婦長はでばった腹をことさらつきだし、やせほそったミッチとトラゾーはそれだけで圧倒されてしまった。
「しかし、家政婦長。わたしたちは今まできちんと労働を……」
「労働? そんなくだらないことをやってたのかい?」
「あんたがやれと言ったんじゃないか!」
「知らないね」
 平然とこたえる家政婦長に、一同は言葉をなくしてしまった。
 壁ごしに、悲鳴や嬌声がたえまなく聞こえてくる。
 ナーシェルたちは、つばをのみこみ、スープをみつめた。
 晩飯は、どうやらあきらめた方がよさそうだ。

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