其の四 雪鬼、雨水国にやぶれる
「うわぁああっ」
みずたまりにとびこんだナーシェルとドードー鳥は、どこかの壁からいきおいよく外にはじきだされた。
ばっと身をおこし、あたりをみまわすと、そこはたしかに雨水の城だった。王さまと側近が、おどろいた顔でこちらを見ている。
ナーシェルが呆然としていると、
「うひゃあ」
と、後ろからふうせん男爵がころがり出てきた。
「ふうせん男爵っ」
ナーシェルが男爵のポヨポヨしたおなかに抱きついていると、それにつづいてネッチた
ちも、壁をつきぬけるようにしてとびだしてきた。
「あ、雨水の城だぁっ」
ネッチとミッチは手をとりあって喜んだ。しかし、
「ぎゃあ!」
とトラゾーが絶叫をした。
雪鬼たちが、みずたまりをとおってあとを追いかけてきたのだっ。
「ひええええっ」
ナーシェルたちはすざと後退さった。
「な、なんとしつこい奴らじゃ」
トラゾーがむきだしの刃をふりかざすが、ヒポトンクリス三世は根元までこおりつき、もはや使いものにならない。
「な、なにごとじゃっ」
雨水の王が立ち上がってわめいたが、ナーシェルたちには答える余裕もなかった。
雪鬼たちは、空中にとどまったままうめきつづけている。
「な、なんだ?」
ネッチは、ようやく雪鬼のようすがおかしいことに気がついた。
おそいかかってくるどころか、シューシュー音をたてて、苦しみだしたではないか。
「あ、あつい。なんだ、ここは?」
二本角が頭をおさえて言った。
「そうか、ここは雨水国だったんだっ。雪と氷の国みたいに寒くないんだ」
ナーシェルがするどく叫ぶと、みんなはハッと気がついた。
「雨水国だとぉっ」
雪鬼たちは、うめきながら、シューと気体にかわってしまった。
「たすかった……」
ミッチはきつねにつままれたような表情でつぶやいた。
「使者、ナーシェルどの。これはどういうわけなのですっ?」
きちがい屋敷の森であった水滴の兵隊たちが、ナーシェルをかこんで詰問した。
そこで、ナーシェルは事情を説明せねばならなくなった。
「そうか、よしわかった。雪と氷の国におくる水は、とめておこう」
話をきいた雨水の王は、こころよく承諾した。
「ただし、女王は雪がやむとひどく不機嫌になる。あたたかいのがきらいじゃからな」
といった。
「冷え性なのかな?」
ささやくミッチの胸を肘でどつき、
「雪と氷の国にもどりたいんですが」
ネッチがいうと、雨水の王はさっと腕をふって、床に例のみずたまりを用意した。
「そこをとおれば雪と氷の国だ」
「その前にわしの刀をどうにかしてくれっ」
トラゾーがこおった刀をふりまわす。水滴の兵隊たちが、お湯をもってきてようやくとけた。
こんどは、池ほどもある黄金のみずたまりに、ネッチたちはピョンピョンとびこんでいく。ふうせん男爵も、今回はどうやらひっかからずにすんだようだ。
最後にみずたまりに足をふみだそうとしたナーシェルに、雨水の王が声をかけた。
「ナーシェルよ」
ナーシェルがふりかえる。雨水の王はその目をまっすぐに見つめた。
「ブリキの王のことはすまなかった」
すると、ナーシェルはテレたように笑った。
「もういいよ。誤解もとけたんだし」
雨水の王は満足そうにうなずきかえした。
「またいつでもきたい時にきなさい。お前はただ一人のこどもなんだから」
「はい」
みずたまりに足首をもぐらせながら、ナーシェルは、あの雨さえなければなぁ、とおもっていた。