ファイヤーボーイズ

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   4

 一同が病院につくと、宮田の手術はすでにはじまっている。文吾たちが出てきた看護婦に聞き出すと、開腹が必要となる大手術のようだった。文吾は、宮田の妻や子供の顔が見られなかった。
 高橋の家族も来ていたが、遺体には会わさないことに決めたようだ。
 文吾たちは、長椅子にすわり、手術がおわるのをまちかまえた。
 市局長の二宮が駆けつけた。非番だった二部の消防官も、病院にやってきた。彼らは、現場で何があったのかを、文吾たちから聞き出した。
 文吾は現場についたあとの出来事を詳しく語った。少年が振り向いた瞬間に、高橋の体が防火服の下で燃えだしたこと。その目が自分に向いたとたんに、胸に痛みが走り、空中には火がともった。
 二宮たちは唖然として、話に聞き入った。
「君たちが、気が動転しているのは、わかるが、自分の言っていることがわかっているのか? それでは、まるで……」
 二宮は言葉に詰まった。
「だけど、斉藤夫婦と思われる死体は、完全に消し炭になっていましたよ」と遠藤が言った。「鑑識に聞いたんですが、骨ものこっていないそうです。それに、妻と思われる遺体ですが、腕を残して、残りは燃え尽きてなくなったとしか思えない」
「誰かが、腕を切り落として連れ去ったんだろう。警察は殺人の線でも、捜査を進めていると報告があった」
「でも、部屋の壁に、人の燃えた跡がありましたよ」と文吾が言った。
 二宮はいらいらと、背中を向けた。
「そんな報告はあげられない。火だねもないのに、火がついたりするか。防火服の中だけが燃えることもない。あの子供が火をつけたみたいな言い方はやめろ!」
「そうは言ってませんよ」と小池が言った。「ただ俺たちは見たんだ。たしかに、空中に火がついたし、それに、防火服の中が燃えたのは……」
 小池はつばを飲んだ。
 一同は黙り込んだ。
「なにか説明のつくことがあるのかも」と駒野はつぶやいた。「あの部屋の温度は異常だった。防火服の中でなにか化学反応をおこしたのかも」
 文吾たちは疑わしげに駒野をみた。彼らは消防官だけに、火事や火災事故に関する知識が一般人よりある。人体が、骨ものこさず、炭にかわるような高熱の炎などは、考えられない。それならば、人体だけが燃えて、なぜあの部屋が燃えなかったのか、その説明がつかなかった。
「君らは、なにかるあの五歳にもならん少年が、念力発火かなにかをやったとでもいうつもりかね」二宮は言った。「信頼する所長が目の前で死んで、動揺しているのはわかるが……」
「防火服の中が燃えたんですよ。いっしょにいた自分には火がつかなかったのに……」
「もういい」と二宮は言った。「児童福祉局から連絡があった。あの斉藤哲朗という少年は、福祉局に保護されたことが一度ならずあったそうだ。君たちは両親から虐待をうけていた五歳の子供を、このうえ放火犯として報告するつもりか。それが良識ある消防官のいうことか。マスコミにはかっこうの餌だぞ。まともな消防官の言ったこととはとても思えん。いまの話は聞かなかったことにする」
「市局長、彼らだって、そんな話を信じてるわけじゃない……」大野がとりなすように言ったが、
「三人とも三日間の謹慎をもうしつける。プレスにあっても、なにもしゃべるな。その間に頭を冷やすんだ」
 二宮は湯気をたてて去ってしまった。
 沈黙のおちた廊下で、時間だけが過ぎていった。

 文吾は、屋上にのぼった。
 欠けた月が、照っている。空の半分ほどに、雲がある。
 宮田の手術は、まだ終わらない。
 文吾は金網のそばまで行った。風が強かった。高橋のことが思い起こされてならなかった。ふいに、泣けた。
「おやっさん、ごめんよお」
 文吾の声を風が吹き払った。文吾は、自分の声に、高橋が死んだことをようやく受け入れた。
「一人前になるまで、生きててくれりゃあよかったのに」
 月が高橋の顔に見えてきた。
「おやっさんのために、なにかしてやりゃあ、よかった。ごめんよお」
 文吾は手すりをつかみ、膝を落とすと、よよ、と泣き崩れた。

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