一同が、運動場をよこぎる間も、校舎からは、哲朗が放ったと思われる火点が、一度ならず見えた。文吾は振り向いた。本町の方角からは、まだ煙があがっている。焼け跡に転がった死体や、ベッドに寝たきりの宮田、防火服を着たまま炭になった高橋のことを思った。彼は怖くてふるえている。膝に力が入らない。
(ちくしょう、ほんとは、あんなとこに行きたかねえよ。)
マスクをもつ手が震えた。なんとか口もとにあてがう。冷たい酸素を吸い込んだ。
「面体着装……」
無意識につぶやく。重い装備も、今は心許ない。
「あいつが火をつける瞬間はわからないのか?」駒野が訊いた。
「見られたらまずいと思った方がいい。いいか、チリッときたら逃げろ。あいつの火は追ってこない」
文吾が、校舎につづく扉を開けようとすると、鍵のあった部分が溶けているのがわかった。文吾はその扉を、そっと開く。校舎から熱風が吹き出し、屋内で影が揺らめいた。まるで熱帯の砂漠にいるかのようだ。
(あのときと、おなじだ……)
三人は、消化器のピンを抜いた。つばをのんで、屋内にふみこんだ。
「あ、熱い……」
校舎全体の温度があがっているかのようだ。
(どんな熱量があったら、こんな温度になるんだよ……)
柱に温度計が残されている。赤い筋が、ガラス管をふりきっている。
文吾はのどをしめらせたかったが、舌の根までカラカラだ。
ふるえるブーツが廊下に音をたてる。
「廃校に入ってくれて、助かったぜ」小池は強がったが、声がふるえている。「燃え種が少ないぞ。鉄筋なら、燃えにくいはずだ」
「あいつ、よく家出してたんだってよ。この校舎にも、来たことあるのかもな」
駒野がつぶやく。彼らは、暗い階段をゆっくりとのぼる。空気が、濃密だ。体がだるい。緊張のあまり、逆に筋肉が弛緩している。文吾の目に涙がにじんだ。胃袋の中身を戻しそうだ。
(消防官になって、なんどもチビリそうなことがあったけど、こんなに怖かったことはねえ。)
彼の頭脳は、危険信号を最大デシベルで発している。引き返せ。全身の肌が、細胞が、冷や汗をにじませ叫んでいる。恐怖の分泌物が、もれだして、文吾の脳を支配する。
踊り場に出る。上を見上げる。誰かが待ちかまえているような気がしたが、誰もいなかった。彼らは、横一列になり、消化器のホースを前方に向けて、階段を進んでいく。一度火がついたら、こんなものが役に立たないことはわかっていた。あいつの炎は、体の中につくのだ。大切なのは、絶対にくらわないことだ。
階段がとぎれた。三人はじりじりと廊下をすすみ、壁際から、教室へと続く、通路をのぞいた。
二階の廊下には、これまで以上の熱気が渦をまいている。三番目の教室だ。と文吾はつぶやいた。二人には聞こえなかったようだ。
文吾は、以前に駒野がつぶやいた言葉が、なぜか頭をかけめぐった。
ファイアー、スターター。