山本周五郎「水たたき」腕の立つ板前の辰造は、年の離れた女房にとことんほれこんでいた。その人情から、余計な思いつきを口走りそのせいで女房が自分の元から離れていく。下町の人情とすれ違いを描いたこれも「おたふく」

■あらすじ
 よし村の主人、辰造は、腕のたつ板前。いっこく者だが、人情に厚い親方である。が、女房のおうらが出奔し、今では表にもろくに出ず、不機嫌に暮らしている。
 ある日、よし村の板場へ男の子が顔を出すようになる、いつも腹を空かしているくせに、何か上げようとしても受け取らない。どうやら侍のこどもらしい。ひょんなことから、辰造は近所に住む浪人角田与十郎と親しくなるのだが……

 本作のおうらは、「おたふく」のおしず、にそっくりです。自分のことをおたふくと呼んで明るく笑っている所も同じ。書かれた年代をみると、1955年(昭和30年)11月 『面白倶楽部』発表。おたふくは、1949年(昭和24年)4月 『講談雑誌』発表の作品なので、おたふくを下敷きになっているようです。主人公のやきもちで、ひょいと関係がこじれてしまうところも同じ。こじれようは、「水たたき」の方がひどいのですが。

■おたふく三部作
おたふく https://www.youtube.com/watch?v=PNylxyE5DCk
妹の縁談 https://www.youtube.com/watch?v=8XOuQ0kL6wc
湯 治  https://www.youtube.com/watch?v=5MpNlzKQHaY

■登場人物の紹介

辰造……料理屋「よし村」の主人。
角田与十郎……よし村の近くに住む浪人。子どもが、板場に遊びにいったことから、辰造と親しくなり、帳簿をまかされる。
角田孝之助……与十郎の子ども。
おうら……辰造の恋女房。
安吉……「よし村」の煮方。
豊次……「よし村」の焼き方。
おきみ……「よし村」の女中。
久七……渡り職人。酒飲み。
おまき……「よし村」の女中頭。
徳次郎……元「よし村」の板前。
いせ……おうらの叔母。

 

■用語集 水たたき
・きすぐれ……酩酊。へべれけ。
・手爪先(てづまさき)……手の指先。
・進物(しんもつ)……贈り物。
・しぶり……物事をする仕方。やりかた。しぐあい。
・四万六千日(しまんろくせんにち)……七月十日の観世音菩薩の縁日。
・索漠(さくばく)……心を満たす物がなく、物寂しく感じる様。荒涼として気の滅入る様。
・片口(かたくち)……一方にだけ、つぎ口のある長柄の銚子。
・いっこく……がんこでわがままなこと。
・ひらぐけ……新の入っていないやわらかな帯び。
・帷子(かたびら)……裏をつけない布製の衣類のこと。
・人別(にんべつ)……江戸時代人別改のための帳簿。初期は、家族以外に、家畜、家屋の大小も記載されたが、享保以降は、人口のみに。

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