岡本綺堂の名作 半七捕物帖を朗読連載中!

目次

傑作!半七捕物帳をYouTubeにて朗読連載中!

 1917年大正6年)に博文館文芸倶楽部」に掲載され、以降人気を博しました。中断をはさんで、1934年からは「講談雑誌」に場を移して、短編を合計68編掲載しました。捕物帖という分野を開拓し、日本の探偵小説の創世記をいろどった名品であります。幾度もTVドラマ化され、現在も一般はおろか数多くの作家に支持されています。

半七捕物帳の世界

時代は明治――新聞記者の私は、赤坂に住む楽隠居の元に足繁く通っている。この老人、実はただものではなく、幕末の世において、数多くの難事件を解決に導いた岡っ引きの明親分であった――

半七捕物帳の登場人物

半七……文政六年生まれ。13才で父を亡くした後、一家を支えることになるが、放蕩を覚えて、無頼の青春をおくっていた。18歳で神田三河町の御用聞き吉五郎の手下となった。石灯籠事件で名を上げていこう、その実力をみとめられるようになり、以降江戸八百八町にその名を轟ろかせていくことになる。通称「三河町の半七」「三河町の親分」維新の変転により廃業するが、新しい物好きであり、新時代にもうまく順応している。40才の養子があり、孫が二人いる。

お仙……半七の妻。明治の現在はなくなっている。全部で十七事件に顔を出している。姉さん女房で、内助の功で半七を救う。お粂とも仲良し。

お粂……半七の妹。八つちがい。常盤津の女師匠・常盤津文字房。明神下で母親と暮らしている。半七が御用聞きをすすめるほど、頭の切れは兄ゆずり? 半七には甥があるとのことなので、維新後には結婚したものと思われる。

熊蔵……半七の手先。湯屋を経営。

朗読半七捕物帳!

第一話~第四話

第一話のお文の魂から、石灯籠、勘平の死、湯屋の二階までを一挙配信中!

宮部みゆきも絶賛!

 捕物帖の傑作にして、江戸情緒に満ちた岡本綺堂の代表作であります。化成から幕末にかけて、岡っ引き半七の活躍を、明治期の新聞記者が取材をする形式で、現代【明治】と過去【江戸】を行き来しつつ、旧幕時代を克明に描いています。
 連載の開始は、1917年と大正年間。江戸も遠くになっております。短編68作、番外の中編が一編。
 綺堂自身は、明治五年【1872年】の生まれで、父親は幕府御家人。漢文漢詩に親しみながら、英語も学んでおります。新聞記者として、日露戦争にも従軍。1891年より、執筆活動を開始しました。新歌舞伎を代表する劇作家でもありました。
 半七の第一作をかいたとき、岡本綺堂は、45才でありました。綺堂の半七は、日本の探偵諸説、時代推理のさきがけとなりました。

 シャーロックホームズに影響を受けて、文芸誌にて連載のはじまった半七捕物帳。
 主人公は、文政六年1823年に生まれた、御用聞き吉五郎配下の半七。石灯籠事件で初の手柄をあげて、のちに親分の跡目を相続します。酒を飲む描写もあるんですが、じつは下戸。
 通称は「三河町の半七」
 半七は、与力・同心ではないので、なんの権限も持っていないのですが、天賦の推理力で江戸の犯罪を解き明かしていきます。半七のライバル? ホームズも探偵なので、逮捕権はもってないですね。
 ちなみに没年も公開されており1904年、明治37年没。享年は81才でありました。

第五話 【お化け師匠】

岡本綺堂と「半七捕物帳」

 岡本綺堂は新歌舞伎の作者でもあり、1913年以降、作家活動に専念、1916年より、半七捕物帳の執筆にとりかかりました。父は、幕府御家人の岡本敬之助。日露戦争では、従軍記者として満州に赴いています。

計69作をかき、最後の作品「二人女房」は。綺堂最後の作品となりました。

江戸の岡っ引きとして、数々の難・珍事件を解決した、半七の活躍をお楽しみください。

第六話【半鐘の怪】

 

第七話 【奥女中】

 

第八話 【帯取りの池】

 

第九話 【春の雪解け】

■「春の雪解け」あらすじ

 慶応元年の正月の末、半七は下谷の竜泉寺前で、辰伊勢の女中ともめる按摩にあった。廓で働く徳寿は、お得意先の依頼から逃げ回っているようなのだが、奇妙な仔細があるらしく……  岡本綺堂の傑作、「半七捕物帳」を全文朗読、撮り下ろしです!

 

第十話 【広重と河獺】

 今回の半七が相手をする捕物は、動物。しかも、二編にわかれております。  ある日大身の旗本の屋敷の屋根に、小さな子どもの死体がうち捨てられていた。みなりをみるなり町人のようだが、なぜそんなところに、誰が小さな子どもをころしたのか? 半七はさっそく捜査を開始するが

第十一話 【朝顔屋敷】

■半七捕物帳「朝顔屋敷」

 素読吟味の試験早朝、旗本の若殿が姿を消す。内密に若君の行方をおう杉野家の用人は、困り果てて八丁堀同心槇原のもとを訪ねた。人さらいか神隠しか? 槇原より矢の立った半七親分は、事件の解決に乗り出すが――? 安政三年 半七三十四歳。アメリカ総領事ハリスが着任した年。

第十二話 【猫騒動】

今回の半七捕物帳は、怪談……

 猫好きのおまきは猫を愛する余り、多頭飼いをしてしまう。長屋の住人たちは困り果てて、猫を捨てるよう説得するが……

 

第十三話 【弁天娘】

 

 講談倶楽部にはじめてのった作品で、大正十二年六月号。同誌には27編が掲載されました。昭和四年に再開されてから書かれたものは、すべて講談倶楽部への寄稿です。

 弁天娘は、嘉永七年。半七32才のときの事件。江戸では、写真術が伝来。伝馬町の牢での脱獄。日本橋住吉での仇討ち事件などがありました。

 さて、三社祭りにでかけようとした半七のもとに、山城屋の白鼠、利兵衛がやってきます。店で、徳次郎という若者が奇病でなくなり、死ぬ前に山城屋の一人娘「お此」に殺されたのだと言い残したのだという。徳次郎の兄、徳蔵のゆすりにあって、利兵衛は半七に救いをもとめますが……

登場人物

利兵衛……質屋山城屋番頭

お此……山城屋の一人娘。通称「弁天娘」。徳次郎の殺害を疑われる。

徳次郎……山城屋の奉公人。16才。病死。

徳蔵……徳次郎の兄。25。

お留……徳蔵の妻

伝介……無頼者。煙草売り。

善八……半七の手下

お熊……山城屋小女。十五の山出し娘。

第十四話 【山祝いの夜】

■あらすじ

 事件は、1862年文久二年五月七日に起こりました。出てくる子分は多吉。この年は、実際の江戸でも大雪だったそうで、火事が多く、夏から秋にかけて麻疹が大流行。相撲の人殺しなんて事件がありました。幕府が参勤交代を緩和して、妻子の帰国を許してしまったのも、この年。
 綺堂の発表は、大正七年で、「探偵雑誌」の四月号。

■登場人物

多吉……半七子分。

小森市之助……二十の若侍。ご用を果たしての帰り道、事件に巻き込まれる。

七蔵……市之助の家来。

喜三郎……関所手形がなかったため、市之助の子分になって関所を抜ける。

お関……宿の女中

 

第十五話 【鷹のゆくえ】

■鷹匠について
 作中の鷹匠は、若年寄支配下で、二名の鷹匠頭により二組編成されました。鷹匠頭の下に、鷹匠組頭二名。鷹匠十六名。見習い六名。鷹匠同心五十名です。
 綱吉の時代に廃止となり、鷹は新島などに話されましたが、吉宗の代に復活。千駄木の鷹匠屋敷は文京区本駒込三丁目にあり、跡地には都立駒込病院が建っています。

■用語集 半七捕物帳 鷹のゆくえより
花巻の蕎麦……あぶって揉んだ海苔をかけた、かけそば。
町方(まちかた)……町奉行の役人。またはその支配領域。
郡代(ぐんだい)……勘定奉行に属し、幕府直轄領の行政にあたった機関。十万石以上の天領の農村地帯をおさめた。五万石程度の天領は、代官が、年貢の収納と民政にあたった。
法界悋気(ほうかいりんき)……自分に関係ないことで、嫉妬すること。
兼帯(けんたい)……一つで、二つ以上の要を兼ねること。

冠木門(かぶきもん)……冠木をわたした屋根無しの門。
白斑(しらふ)……白色の斑点。

第十六話 【津の国屋】

■第十六話は、怪談!?
 常磐津の師匠文字春が、とある帰り道に行きずりとなった若い女。どこかしら、陰で、薄気味の悪いところがあって、その女の行く先が赤坂は、裏伝馬町の「津の国屋」
 一人娘のお雪に会いに行くというのだが、どうにも身なりがあやしい。
 文字春は女の正体をさぐろうとあれこれ話しかけたところ、女はふっと消えてしまう。
 この消えた女、津の国屋の養女で、追い出されたうえに、身を投げ死んだお安ではないかという話。
 以来、津の国屋には、お安の陰がつきまとい、ついに死人が出ることになった――

■登場人物
文字春……常磐津の師匠。
兼吉……文字春の近所に住む工の棟梁。
お安……恨みを残して死んだ若い女。
常吉……若き岡っ引き。桐畑の幸右衛門のせがれ。人形常の異名がある。
次郎兵衛……津の国屋主。
お藤……津の国屋の女将。
お清……お雪の姉。十七才でなくなる。お安に呪い殺されたという。
お雪……津の国屋の娘。
金兵衛……津の国屋番頭
勇吉……津の国屋小僧。金兵衛の遠縁
長太郎……津の国屋の若い衆。
お角……津の国屋の新しい女中。
お松……女中
お米……女中

■用語集 半七捕物帳 津の国屋
草双紙……絵入り小説本の総称。多くはひらがなで書かれた。
御祖師様……祖師の尊称で、特に日蓮宗での日蓮の尊称。
巾着切り……スリ。
やみやみ……むざむざ。みすみす。
さのみ……それほど、さほど。
灯ともし頃……日が暮れて、燈を灯し始める頃合い。
屈竟(くっきょう)……結局。つまり。ちょうど都合が良い。
廉(かど)……ある事柄の原因、理由となる点。
ぶらぶら病い……寝込むほどではないが、どことなく具合が悪い状態が続く病気。
老少不定(ろうしょうふじょう)……人の寿命に、老若の定めのないこと
枕紙……枕をおおって汚れを防ぐ紙。
回向(えこう)……死者の成仏を願って仏事供養をすること
五つ半……午後九時
死霊(しりょう)……死者の霊魂
粗相(そそう)……不注意や軽率から、過ちを犯すこと。
眷属(けんぞく)……一族のもの。親族。
日参(にっさん)……毎日参詣すること。
朝涼(あさすず)……夏、朝の内の涼しいこと。
売僧(まいす)……堕落僧。えせぼうず。
さなきだに……ただでさえ。そうでなくてさえ。
草市(くさいち)……七月十二日の夜から翌日にかけて、盂蘭盆の仏前の供え物を売る市。
棚経(たなぎょう)……盂蘭盆会で、僧侶が精霊棚の前で読経すること。
足駄(あしだ)……雨の日などにはく、高い歯の下駄。歯は差し歯で、差し替える事が出来る。高下駄。
桂庵(けいあん)……雇い人、奉公人の斡旋をする職業。口入れ屋。
胡乱(うろん)……正体の怪しく疑わしいこと。
覿面(てきめん)……目前。まのあたり。
白鼠(しろねずみ)……主家に忠実な番頭や雇い人。白鼠は大黒の使者といわれ、古来より吉兆とされる。
証跡(しょうせき)……のちのちの証拠となる痕跡。
内福(ないふく)……内証のゆたかなこと。
総代(そうだい)……その関係者全員を代表する人。
心柄(こころがら)……自分の心が原因でそうなること。自業自得。
水口(みずぐち)……台所
悪計(あっけい)……邪悪な計略。わるだくみ。
莫蓮者(ばくれんもの)……すれていてずる賢いこと。
身代(しんだい)……家の財産。資産。

第十七話 【三河万歳】

■第十七話は、師走の寒い一夜からはじまります。半七の下に持ち込まれたのは、鬼っ子をかかえて行き倒れていた凍死体の話。男が才蔵であったことから、節季師走につきものの、万歳才蔵に手をのばして捜索をはじめるが――

■登場人物
菅谷弥兵衛……八丁堀同心
亀吉……半七の手先。
善八……半七の手先。
富蔵……下谷稲荷町に住んでいる男。
お津賀……富蔵の隣にすむ。旦那とりをしている。
市丸太夫……万歳の男。お津賀の叔父を名乗る。

■用語集
屠蘇(とそ)……一年間の邪気を払い、長寿をねがって正月にのむ縁起物の酒。
・万歳(まんざい)……千秋万歳をことほぐ意。新年を祝う歌舞。関東へ来るものは、三河国から出るので、三河万歳。京都は大和万歳といった。
・才蔵(さいぞう)……万歳で、太夫の相手をつとめ、鼓をうち、滑稽な仕草で人を笑わせる役。
・回礼(かいれい)……新年の挨拶回り。
・軒別(けんべつ)……一軒ごと。家ごと。
・嬰児(みずこ)……生まれたばかりの赤ん坊。
・香具師(やし)……祭礼や縁日における参道、境内や門前町、露天で出店や、街頭で見世物などの芸を披露する商売人のこと。
・平仄(ひょうそく)があう……順序やつじつまをあわせること。
・宵の五つ……午後八時
・天神髷(てんじんまげ)……髷の中央を紙で巻き、簪で止めたもの。幕末から明治にかけて、芸妓や若い夫人がゆった。

第十八話 【槍突き】

■第十八話は、無差別殺人!
 犠牲者の一人として、作中に清元延寿太夫という方が出てこられますが、実在の上に実際に劇場の帰宅途中に刺殺されたらしい。犯人は不明。

■登場人物
七兵衞……葺屋町の岡っ引き
お兼……七兵衞のところの雇い婆
岩蔵……七兵衞の手下
民次郎……七兵衞の手下
寅七……七兵衞の手下
勘次……駕籠屋
富松……勘次の相棒
長三郎……紺屋の奉公人
お秋……茶屋の女
内田俊之助……下谷の剣術指南の息子。
作兵衛……甲州の猟師
作右衛門……作兵衛の兄。

■用語集
辻占(つじうら)……道の辻に立って、通る人の吉凶を占う。
姫糊……飯を軟らかく煮てつくった糊。
四つ……午後十時
景物……四季折々の趣のある事物
木賃宿……旅人に自炊をさせて泊めた宿屋
疝気……下腹部や睾丸がはれて痛む病気

※甲州 丹波山をたんばやまと読んでいますが、たばやまが正しいようです。申し訳ありません(_ _)

第十九話 【お照の父】

真っ黒ななりをした怪物に殺されたお昭の父、娘たちにも嫌疑がかかる中、半七は河童の後を追う!

■登場人物
新兵衞……芸者屋の主人
お照……新兵衞の娘
お浪……妹芸妓
お滝……新兵衞の娘
定次郎……お照の恋人
幸次郎……半七の子分
長吉……河童
長左エ門……長吉の父
長平……長左エ門弟

■用語集
保名(やすな)……歌舞伎の舞踏
物日(ものび)……五節句などの特別な日
番屋(ばんや)……江戸時代、自身番のいた部屋。
胡乱……正体の怪しく疑わしいこと。または、確か出ないこと、真実かどうか疑わしいこと。
廉……ある事柄の原因。
水口……台所
情夫(れこ)……これを逆にした語。情人などをぼかしていう。
目串(めぐし)……おおよその見当。めぼし。目当て。
意趣(いしゅ)……恨み
六部(ろくぶ)……六十六部の略。巡礼僧
べらぼう……程度がひどいこと。普通では考えられないような馬鹿げていること。
微塵棒(みじんぼう)……微塵粉を砂糖でにかため、棒状にねじった駄菓子
大尽(だいじん)……財産家
黙許(もっきょ)……黙認
笈(おい)……修験者などが背に負う箱

第二十話 向島の寮

■あらすじ

向島の裏寂れた寮に方向に出た田舎娘。しばらくたつと、同じく江戸で働く姉の元に救いを求める手紙が届いた。心配した姉のお徳は、奉公先の主人に相談し、この解決には神田三河町の旦那に頼むしかないことになり、半七は風邪で重い頭を引きずりながら、腰を上げることになるが……

■登場人物

平兵衛……生薬屋
お徳……平兵衛の奉公人。おつうの姉。
おつう……田舎から出てきて奉公先を求める
亀吉……平兵衛の店の小僧
松吉……半七子分。
おきわ……霊岸島米問屋三島の一人娘
良次郎……三島の手代
お山……良次郎の許嫁
六蔵……向島の寮を管理する
お糸……三島屋後家
由兵衛……三島屋番頭

■用語集

生薬屋……薬を売る店
時候……四季折々の気候。そのときどきの陽気。
桂庵(けいあん)……縁談や訴訟の仲立ちをすること。また、奉公人の斡旋を職業とする人。口入れ屋
八つ……午後二時
順道(じゅんどう)……順当な道筋。または道理。
高直(こうじき)……値段が高いこと。
衾(よぎ)……寝るときにからだにかける夜具。ふすまとも。
五つ……午後八時
長霖雨(ながじけ)……長雨
仰山(ぎょうさん)……言動や物事が大げさなさま。
愁嘆場(しゅうたんば)……悲劇的な局面
戸前(とまえ)……土蔵の入り口
重た増し……体重の重い人を乗せたときに駕籠の運賃を上げること
前非(ぜんぴ)……昔の悪事。
憐憫(れんびん)……あわれむこと
身代(しんだい)……財産
入牢(じゅろう)……牢屋に入れられること。投獄

第二十一話 蝶合戦

■あらすじ
 今回、半七老人が語りますのは、蝶合戦の最中に起きた、堂守殺人事件
 弁天堂に転がっていた死体には首がない。盗まれたと思った弁天様は、戻っている。
 事件の真相に半七が迫ります。

■登場人物
善昌……弁財天の堂守
お国……女髪結い
熊蔵……半七の子分
覚光……普在寺の住持
与次郎……お国の元亭主の弟

■用語集
比丘尼(びくに)……女僧
赫灼(かくやく)……かくしゃく。光り輝いて明るい様。
四つ時……午前十時
七つ……午後四時
御戸帳(みとちょう)……神仏の厨子の中などに垂れる小さな帳のこと
厨子(ずし)……仏像、経巻などを安置する仏具。正面に両開きの扉がある。
渇仰(かつごう)……深く仏を信じること。
盂蘭盆(うらぼん)……七月十五日を中心に先祖の冥福を祈る仏事。
講親(こうおや)……無尽講、頼母子講などの主催者。講元。
心柄(こころがら)……心の持ち方。気立て。性格。

 

第二十二話 筆屋の娘

■あらすじ
 筆屋東山堂の看板娘、おまんが頓死する。その死に様に違和感を覚えた半七は、子分と捜査を開始するが、あやしいものはつぎつぎと浮かび上がってくる。

■登場人物
源次……半七の手下
吉兵衛……筆屋「東山堂」の主人
お松……吉兵衛の女房
おまん……筆屋の娘。十八
お年……おまんの妹。十六
豊蔵……東山堂の小僧。十六
佐吉……東山堂の小僧。十四
善周……徳法寺の坊主

■用語集
頓死(とんし)……突然死ぬこと。急死。
科人(とがにん)……罪人
破戒(はかい)……戒律を破ること。
帷子(かたびら)……夏に着る単衣の着物。
手古(てこ)……古風で歩。用いて古くなっている。
落雁(らくがん)……干菓子の一つ。
誓言(せいごん)……言葉に出して誓うこと。
寺内(じない)……寺の境内。
暑気(あつけ)……夏の暑さ。しょき。
手妻(てづま)……手品。奇術。
讒訴(ざんそ)……陰で人の悪口を言うこと
洋妾(らしゃめん)……西洋人にかこわれている妾のこと

 

第二十三話 鬼娘

 

■あらすじ
 今回の半七捕物帳は、連続殺人事件。喉を食い破られた女の死体の数々。犯人は捕まらないままに、半七の子分、馬道の庄太の隣長屋で、被害者がでる。管轄ではないが、庄太の報告を受けた半七は、捜査にのりだす。捜査線上には、白地の手拭い、浴衣を着た女が浮かび上がる。女は、江戸市民の噂する、鬼娘なのか?

■登場人物
庄太……半七子分の一人。馬道の庄太
お作……庄太の隣に住む娘。食い殺されたというが。十九か二十歳
お捨……鼻緒屋の娘。十六
お伝……酒屋の下女。二十一。喉笛を食い切られて死ぬ。
お伊勢……お作の母
重兵衛……お作の事件をしらべている。

■用語集
門涼み……門口に出て、涼むこと
出来(しゅったい)……事件が起こること。物事ができあがること。
諸人(しょじん)……多くのいろいろな人
六つ半……午後七時
とんだ六段目……仮名手本忠臣蔵、全十一段中の六段目。鉄砲傷と刀傷のちがいで、勘平の罪がはれるくだりがある。
さのみ……それほど、さほど。
おめおめ……恥とも思わないで平気でいること
豪晒し……罵り言葉。恥さらし。
随身門(ずいじんもん)……ずいじん姿の守護神像を左右に安置した神社の門
夕七つ……午後四時
門送り……葬送のおり、喪家にはいかず、自分の門口で見送ること。
練塀……練った泥土と瓦を交互に積み重ねて築き、上に瓦を葺いたもの
端緒……いちぐち、手がかり
獄門……斬罪に処された首を、刑場にさらす。さらし首。
平生(へいぜい)……ふだん。つねひごろ。

 

第二十四話 小女郎狐

■あらすじ
 今回の半七捕物帳は、半七老人が、昔役人にこっそりみせてもらった「御仕置例書」からの思い出話。新石下村で、五人の男が松いぶしで一度に殺される事件が起こる。関八州の目明かし、長次郎は、事件の裏に、おこよという美しい娘の自殺があるのではないかと捜査を開始するが……
 半七が出てこない回です。

■御仕置例書
 は、岡本綺堂の創作ではなく、御仕置例類集の事だそうで、江戸幕府評定所が、明和八年から嘉永五年までの刑事事件の先例をまとめたもので、民事事件は「裁許留」に記されているそうです。江戸町奉行では、罪状を御仕置裁許帳に逐次記録して奉行に提出していたそうです。

■登場人物
茂右衛門……新石下村庄屋
七助……猪番小屋の番人
佐兵衛、次郎右衛門、弥五郎、六右衛門、甚太夫、権十店……猪番小屋でいぶされる。
長次郎……常陸屋。八州廻りの目明かしで、古狸の異名をもつ。
宮坂市五郎……代官所の手つき
銀蔵……寺男
善吉……佐兵衛の兄。
お徳……善吉と、佐兵衛の妹。
おこよ……川で死んだ美しい娘。小女郎狐と関係をもっていたという。
お竹……おこよの妹
平左衛門……隣村の富裕な百姓。
平太郎……平左衛門の息子。おこよと結婚する話になっていた。

■用語集
目安書(めやすがき)……見やすくするために、箇条をたてて書いた文書。訴状のこともさす。
料簡(りょうけん)……考え。思慮。分別
譴責(けんせき)……叱りせめること
他見(たけん)……他の人が見ること。
後の月見……陰暦九月十三夜の月見
さりとて……そうかといって
傍杖(そばづえ)……とばっちり
眷属(けんぞく)……一族の者。または家来。配下の者。
八州廻り……関八州の治安維持のための、勘定奉行直属の幕府役人「関東取締出役」の別称
庫裡(くり)……仏教寺院の伽藍の一つ。僧侶の居住する場所、台所をかねる場合もある。
床几(しょうぎ)……横長の腰掛け
出来秋(できあき)……みのりの秋
作男(さくおとこ)……雇われて耕作する男
四つ……午後十時
糠星(ぬかぼし)……無数の星
実否(じっぴ)……本当か嘘か
水牢(みずろう)……水浸しにしたろうの中に、罪人をいれて苦しめるためのもの
発頭人(ほっとうにん)……張本人。先に立って物事を企てた人。
小腕(こがいな、こうで)……小さい腕。か弱い腕。または、肘より先の部分。
断案(だんあん)……最終的に決定された、考え、方法、態度
風説(ふうぜつ)……風評。うわさ。
人倫(じんりん)……人道。
罪跡(ざいせき)……犯罪の証拠。痕跡。
所払い……江戸時代の刑罰の一つで、居住する町村から追放し、立ち入りを禁止にする。

 

第二十五話 狐と僧

■あらすじ
 住職の衣をきた狐の死骸が、大溝にみつかる。僧衣は時光寺の住職英善のもの――狐の正体は、英善か? 半七は小坊主英俊に泣きつかれ、町方ながら、寺社方のもめごとに首を突っ込むことになるが

■登場人物
英善……四十一歳の時光寺の住職
善了……二十一歳の納所
英俊……十三歳の小坊主
伴助……五十五歳の寺男
伊賀屋喜右衛門……仏事で、住職をまねく
松吉、亀八……半七子分

■用語集
寺格……ジカク。寺の格式。本山・別院・末寺など
先住……センジュウ。先代の住職。
折本……オリホン。和本の装丁。横長の紙を端から折りたたんでつくったとじ目のない本
白蔵主……ハクゾウス。狂言の人物。古狐が猟師の叔父の僧に化け、殺生をやめさせようとする
茂林寺……文福茶釜で有名
椿事……チンジ。めずらしい出来事。
夕七つ……午後四時
会葬者……カイソウシャ。葬式に参列するひとびと
さのみ……それほど。さほど
朝七つ……午前四時
大立者……もっともおもんじられているひと
寺社奉行……全国の寺院、寺社を管理していた。定員は四人で、奉行所はない。三奉行のうちの最高位。町奉行勘定奉行は老中支配だが、寺社奉行は将軍直属。与力同心は配下になく、探索、捕縛の面で弱かった。町奉行所は寺社奉行の領域を侵すことが出来ないという描写が本作にもある。

 

第二十六話 女行者

■あらすじ
 冷泉為清(れいぜいためきよ)の娘を名乗る行者。江戸の庶民をまどわし、金をつのっているそうだが、勤王浪士とのつながりが考えられ、さらに、本物のお公家とのつながりも断ち切れない。八丁堀同心岡崎は、信頼する半七に捜査を命じるが。
 幕末の世相をうつした作品。

■下っ引き
 岡っ引きの下で働く小者で、普段は職人などの他の仕事をしている。聞き込んだことを岡っ引きに報告するだけの役割で、表には出ないことから、本作でも、捕り物には参加しない。半七捕物帳に出てくる、半七配下の下っ引きは、源次のみ。貴重な存在。

■登場人物
岡崎長四郎……八丁堀同心
多吉……半七子分
源太郎……瀬戸物町古顔の岡っ引き
源次……下っ引き
善八……半七子分

久次郎……炭団伊勢屋の息子
お豊……久次郎の母
重兵衛……伊勢屋番頭
女行者……冷泉為清の娘を名乗る。
式部……五十年配の男で、行者に仕える
藤江……行者につかえる娘
お由……行者につかえる台所働き
お庄……行者につかえる台所働き

■用語集
劇評……ゲキヒョウ・演劇の批評
見巧者……ミゴウシャ・見方の上手なこと
娼妓……ショウギ・公娼
行者……ギョウジャ・修行を行う者
工面……クメン・なんとか工夫して金銭を用意すること。算段
四つ……午後十時
行方……ギョウホウ・密教の修法
炭団……タドン・粉炭をつかって、丸く乾かした燃料
家作……カサク・貸し屋
本復……ホンプク・病気が全快すること
一七日……七日間。または初七日
お会式……法会の儀式
懸想……ケソウ・思いをかけること。恋い慕うこと
幣束……神に供えて捧げる物
蘭奢……ランジャ・正倉院所蔵の香木。
易学……エキガク・易(うらない)に関することを研究する学問
堂上方……ドウジョウガタ・公家
瞞着……マンチャク・ごまかすこと。だますこと。
障碍……ショウガイ・さまたげること。妨げとなる物や情況
二様……ニヨウ・ふたとおり。二種類
山師……ヤマシ・詐欺師。いかさま師

 

第二十七話 化け銀杏

旗本稲川家の宝物、狩野探幽斎の大幅。河内屋が買い取ることになったが、うけとった忠三郎は、化け銀杏の下で、なにものかに襲われ、百両と掛地羽織を盗まれてしまう。忠三郎を襲ったのは、化け銀杏か? だが、百両をぬすんだものは?
 半七親分が、銀杏の精にいどみます。

■登場人物
河内屋重兵衛……茶道具一切をあつかう商人
稲川伯耆……本郷森川宿の旗本
石田源右衛門……稲川の用人
忠三郎……河内屋番頭
峰蔵……下谷の大工
仙吉……半七の子分
円養……松円寺の僧
周道……小坊主
権七……寺男
清太郎……鉄物屋のせがれ
万助……糶呉服屋
お豊……峰蔵の娘
長作……お豊の旦那。峰蔵の弟子。

■用語集
疎略……ソリャク・ぞんざい。物事の扱い方などが、丁寧でないこと
懇望……コンモウ・ひたすら願い望むこと
唐桟……トウザン・紺地に縦の細縞を織り出した物。元は、インドのサントメからの渡来で、京都でつくられたものを和桟留。舶来物を唐桟留といった。
更紗……サラサ・木綿地に多色で文様を染めた物
寝鳥……ネトリ・ねぐらで寝ている鳥
行状……ギョウジョウ・日頃の行い。身持ち。
不埒……フラチ・ふとどき。道理に外れていて、けしからぬこと。
匆々……慌ただしい、いそがしいさま。
四つ……午後十時
行火……手足を温める小形の暖房具
口銭……コウセン・クチセン・仲介手数料。運送料。保管料。

お銭……おあし
獄門……ゴクモン・斬罪に処せられた罪人の獄屋の門にさらすこと
内済……ナイサイ・表沙汰にしないで内々ですませること
畢竟……ヒッキョウ・つまるところ。結局。

第二十八話 雪達磨

今回は、雪達磨から出てきた死体のお話。

■登場人物
甚右衛門……上州太田の百姓
豊吉……飾り職人
お政……品川の女郎
源次……飾り職人
近江屋九郎右衛門
石坂屋由兵衛

■用語集
足駄……アシダ・歯の高い下駄。雨の日などに用いた。
金主……大名に金をかす町人
逗留……トウリュウ・その場に留まって進まないこと。滞在。
五つ……午前八時
夕六つ……六時
四つ……午後十時
有り体……アリテイ・ありのまま
頓死……トンシ・突然死。急死
端緒……タンチョ・物事のはじまり。糸口。手がかり。
刑戮……死刑に処すること。

第二十九話 熊の死骸

この熊の死骸は、29話目ですが、事件としては、大坂屋花鳥、石灯籠のあと、ちなみに「お文の魂」は56事件目。

 半七、このとき、23才で、青山権田原からの出火というのも史実。
 半七捕物帳のうち、もっとも古いのは「小女郎狐」

https://youtu.be/J46-rY8ENmg

 で、このとき半七は生まれていません。このあと、「白蝶怪、夜叉神堂、旅絵師、槍突き」と記載の事件が続きますが、槍突きのときが三歳だそうで、最後の事件となった筆屋の娘のときが、45歳。

 もっとも半七の生年は、一度変わっており、当初の生年月日は、天保七年1836年でした。昭和四年に、文政六年1823年の生まれに変わりました。

 当作に出てくる子分の松吉。ひょろひょろと背が高いので、ひょろ松の仇名がある。上野付近在住で、酒好き、古酒新酒の嗅ぎ分けのできる鼻利き。全七二事件のうち、十九の事件に登場。養父吉五郎の跡目をついで間のない熊の死骸事件に登場することから、吉五郎から受け継いだ子分ではないかとの説もあります。

 ちなみに、半七捕物帳に登場する子分の総数は11人だそうです。

■用語集
三田の魚藍……細川越中守の中屋敷に魚藍観音があり、その前の坂を魚藍坂、その町屋を魚藍前といった。その辺りを三田の魚藍といったもよう。類焼……もらいび
永代橋の落ちたとき……文化四年八月にあまりの人出に、重みで橋が落ちたときに、気づかずにすすむ群衆をとある侍が刀を抜いてくいとめたと、武江年表は記録している。
三助……銭湯で、風呂を沸かしたり、客の背中を流したりする男。
畢竟……つまるところ。結局
因業……結果を生む原因となる行為
千手観音の上這い……虱が表面にでて這い回ること
枕辺……まくらもと。枕頭
粂の仙人……今の奈良県吉野町の竜門寺にこもって、仙人となった。花の寺で知られる久米寺を建立したと言われる。女の脛にみとれて神通力を失った故事がある。

■登場人物
松吉……半七の子分
勘蔵……車湯の三助
絹……備前屋という生薬屋の一人娘
四郎兵衛……備前屋の番頭
弥平……半七の同業。高輪の伊豆屋。
彦八……弥平の子分。
六三郎……小博打をうつ小どろぼう。
百助……車力
伝吉……六三郎の仲間

第三十話 あま酒売

今回も、過去の捕物帳をせがまれた半七、津国屋のような怪談話をというので、思いついたのが、とあるへびそうどうのお話。夜な夜な現れる甘酒売り。それを飲んだ江戸の人たちは、高熱を出して蛇のごとくのたうちまわり、そのうちの幾人かは苦しみ死にをした。騒ぎが大きくなり、町方が捜査に乗り出す。

■登場人物
伊丹文五郎……八丁堀同心
善八……半七子分
幸次郎……半七の子分
お熊……河内屋女中
利八……河内屋番頭
徳三郎…‥小間物屋

■用語集
風説……噂。
片妻……着物の片方の妻。
注進……事件を急いで目上に報告すること
流布……広く世間に行き渡ること
七つさがり……午後四時すぎ
不念……注意が足りないこと。考えが足りないこと。不注意
地声……生まれつき持ち前の声
五つ……午後八時
玉なし……そのものが持つ、良さを失うこと。台無し。
業腹……非常に腹が立つこと。
内済……表沙汰にしないこと
喪心……放心
科人……罪人

 

第三十一話 張子の虎

このたび、半七の披露するお話は、伊勢屋の看板芸妓お駒殺し。

■登場人物
お駒……品川の伊勢屋の名妓。
室積藤四郎……八丁堀同心。半七に捜査を依頼する
石原の松蔵……家尻切りのお尋ね者。
伊奈半左衛門……品川の代官
与七……伊勢屋の若い者
吉助……下総屋の番頭。
お定……伊勢屋の下新造(したしん)
多吉……半七の子分
お浪……伊勢屋の女郎。お駒と仲が悪いが。

■用語集
・化け伊勢……品川宿の伊勢屋に、化け猫の飯盛女がいるという噂がたち、黄表紙などに取り上げられ人気を博した。
・家尻切り……家、土蔵の後壁をきって侵入し盗みを働くこと
・服紗……絹や縮緬でつくった風呂敷。
・板頭……月の内で、玉代のもっとも多い遊女のこと・深川品川の遊女言葉で、吉原ではお職という。二枚目三枚目というのは、遊女の木札をさす。
・素見……スケン。ヒヤカシ・品物や遊女を見るだけで買わないこと
・九つ半……午前一時
・中引け……遊郭の、見世が終わる午前十二時のこと。閉店時刻の午前二時を大引という。
・下新造……遊郭で、新造の一人前にならない者。新造は、姉遊女につく若い遊女。禿から、引っ込み禿→新造→遊女とあがっていく。したしんは、したしんぞを縮めた言葉。
・ごろた石……石ころ
・鏡山のお茶番……浄瑠璃の「加賀見山旧錦絵」より。のちに歌舞伎化された。
・明け六つ……午前六時
・三題噺……客に三つの題を出させて、その場で一席の落語にする。初代三笑亭可楽が創始
とんだ孫右衛門
・五つ……午後八時
・小半町……こなからが四分の一なので、丁の四分の一。90尺
・犯跡……犯罪の形跡
・それ者あがり……それ者は、その道のもの。したたかもの。遊里で生活する者をさす。

第三十二話 海坊主

潮干狩りを楽しむ江戸庶民の前に現れたこじき態の機会な男、彼はハヤテと潮の被害を予言し、ひとびとを救うが一体何者なのか?
 
■登場人物
清次……船宿山石の船頭
幸次郎……半七の子分
市瀬三四郎……旗本の隠居。海坊主を懲らしめる。
千八……網船屋の船頭
おとわ……海坊主と関係を持つ女
お千代……おとわの女中
喜兵衛……おとわの旦那

■用語集
賞翫……ショウガン・あじのよさをたのしむこと
予覚……ヨカク・事前にさとること
さのみ……それほど。さほど。
身状……品行、身持ち

 


半七捕物帳の世界

岡本綺堂、捕物帖を世に出すこと

 半七捕物帳の第一作、「お文の魂」が文芸倶楽部にのったのが、大正六年一月のこと。タイトルはそのままなんですが、副題には「江戸時代の探偵名話 半七捕物帳 巻の一」とありました。

 捕物帖――今では、一つのジャンルとしてなりたっておりますが、岡本綺堂は、この言葉を使うかどうか悩んだといいます。当時は、大衆にも耳慣れない言葉であり、そこで二作目の石灯籠にて、捕物帖の説明を付しています。江戸時代の探偵名話、というのも、捕物帖では、どういう話かわからないであろうから、編集でつけたしたのが真相のようです。

 それから約二十年。69編の連作が編まれましたが、捕物帖の端をなし、世に広めたのは、間違いなく、この「半七捕物帳」なのです。

半七捕物帳、本になること

 雑誌への掲載を得て、七作目の奥女中までをまとめた「半七捕物帳」が、単行本として世に出たのが大正六年七月のことでした。初版は千部。増刷はなかったといわれています。あまり評判には、ならなかったんですね。

 この一冊目は、今では稀覯本になっていてあまり世に出回ることがないそうですが、そのように初っぱなから成功したとはいえない半七捕物帳。続編の半七聞書帖(大正十年)も多くの人の手にとられることはなく、半七捕物帳が世間一般に知られるのは、関東大震災の前後。

 今では、知らぬ者はあるけれども、多くの人が知っている半七捕物帳は、初版から六、七年の時をえてようやく、ということになります。そのときには、岡本綺堂は半七の世界に厭きてしまっていたのだとか……世の中うまくいかないもんです。

半七捕物帳、幻の作品のこと

 68編に及ぶ半七捕物帖ですが、未完に終わった幻の原稿が存在しました。

 最後の作品は「二人女房」

 この作品を書き上げたのが、昭和十一年十月のこと。翌年の早々から、またもや半七に取りかかることになるんですが、六枚ばかり書いたところで、中断。綺堂の健康不良が原因のようで、以降原稿に向かうことなく、延期の意向を講談社に伝えています。

 綺堂は原稿を仕上げてからタイトルをつけていたので、題名も内容も伝わっていません。綺堂は昭和十四年になくなってしまうからです。

 肝心の原稿は歿後に担当だった鈴木氏に贈呈。この人も戦時中に亡くなり、今も所在はわからないままとなっています。

岡本綺堂と怪談話

 半七捕物帳の生みの親、岡本綺堂は怪談の名手でもあるが、自身も恐ろしい目に幾度か遭っている。
 一度目は、明治六年。綺堂(本名敬二)、生後八ヶ月の頃である。
 敬二の寝かされていた小座敷に、鼬よりも大きな獣が縁側より忍び入った。来合わせた母親が驚いて人を呼んだため獣は逃げた

 高輪北町の生家での出来事で、英国公使館にまで通報したため、捜索には外国人まで加わったが、獣の行方はついにしれない。横手の山より黄貂があらわれて血を吸おうとしたのではないか、などと言われたが、ともあれ綺堂は命拾いをし、後に半七捕物帳を無事生み出すことになった。

 次の恐怖体験は、明治七年。綺堂三歳のときである。若い女中に連れられて湯屋に行く途中、敬二は行方不明になる。大騒ぎになったが、敬二は見つからない。翌日の捜索でくだんの女中は、三十歳前後の羽織袴の男に、手を引かれている敬二を発見した。男は、敬二を女中に渡して立ち去った。

 当時、子どもを誘拐してシナ人にうる者ありとの噂がたっていたので、綺堂も危ういところであった。
 三度目は、綺堂五歳のときで、麻疹にて一時は死を宣告されるも、蘇生したらしい

 四度目は、人力車同士の衝突で、転げ落ちた綺堂は、とおりがかった馬車の下に倒れ込んだが、不思議と無傷で命を拾った。
 最後は明治三十七年で、綺堂は三三歳。従軍記者として満州に赴いた綺堂は、小銃弾に帽子を打ち落とされた。
 一緒にいた川島なる人物は、砲弾の破片にやられて戦死したが、綺堂はぶじであった。
 綺堂五回の命拾い話は、綺堂自身が随筆などで書き残している。ちなみに一度目に出てくる英国大使館ですが、綺堂の父親がつとめておりました。

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