奥州二代目彦六一家

奥州二代目彦六一家

「おう」
「二代目ぇ」
 表で雷造と灸蔵が、二人を待ち構えていた。
「なんだ、おめぇら何してる」
 文悟が安心したように笑った。
「なに、一働きしてやろうかと思ってな」
 暴れ者の雷造がぶるんと腕をふるった。
「もうおわっちまったよ」
 彦六が云うと、残念げに顔を歪めた。
「今度からは、俺たちもさそってくれよな、二代目」
 雷造が寂しそうに云った。本当に辛そうだ。
 石屋の灸蔵が、その背を音高くはりとばした。
「いてーっ、なにしやがる!」
「おー、元気が出たじゃねぇか」
 雷造の太い腕をかいくぐり、チビの灸蔵がチョロチョロ逃げ回っている。彦六親分が威勢よく笑った。
「帰りやしょうか」
 腕を袂に入れて、若衆頭がさも愉快そうに歩き出した。
 それを、後ろで弥太郎たちが眺めている。当代きっての粋人、黒田彦六のまわりに集ったのは、さすが一廉の男たちであった。
 この時の、二人の悪怯れぬ様子は、長く語りぐさになった。仁助は一命をとりとめた。

 朝の六どきに、黒田彦六のお目通りは行なわれた。
 大和屋の座敷に、町の長老衆が東西にわかれてずらりと並んでいる。
 下で平伏しているのは、黒田彦六を筆頭とする奥州二代目彦六一家の重鎮たちである。
 きねは座敷の隣に備え付けられた居間で、一人、熱い茶をすすっていた。
 座敷から、老人たちの嬌声が響いてくる。お目通りはうまく云っているようだ。
 きねは開け放たれた座敷の引き戸から陽の落ちこむ庭を眺めた。
「あのアホウも、ようやく二代目だよ、彦六」
 そう云って、一口茶をすすった。目の前で、先代黒田彦六が、笑っているかのようだった。
 かすかに冷気を含んだ西風が、きねのいる座敷に吹き込んでくる。そろそろ、草葉も芽吹き、春が来るだろう。
 茶で暖まった体に、涼やかな風が心地よかった。

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