奥州二代目彦六一家

奥州二代目彦六一家

 きねは土手に敷かれた道に立って、下の河原を見下ろしていた。半兵太たちが、打間芝居にいちゃもんをつけてきた坂本一家と喧嘩を演じている。

 こちらの勢力は、雷蔵を筆頭に中々のものだ。石屋の灸蔵も頑張っている。きねは彦六の生きていた頃を思い出してほろりとなった。あの名親分は、老人になってなお喧嘩ときくと飛んでいった。率先して拳を振るった。 

 その役を、今は半兵太が受け継いでいる。

「おばば様」

 よしずの陰から男が出てきた。篠山休臥斎である。この男も彦六が死んだことを、心底残念がっている口だった。

 河原の喧嘩をじいっと見つめる。倒れこむ半兵太が見えた。あの若者は休臥斎から見ても、立派なものだった。

「そろそろ、いかがです?」

 休臥斎がきねを見た。もういいかげんにしてやれという意味が、多分に含まれている。

 きねはしばし逡巡した。半兵太にしかと二代目つとまるだろうか? しかし、西田屋との一件は文悟から聞いている。

「よしっ」

 と、きねが太ももをはたいた。合格、という意味だった。

 休臥斎が、花が咲いたように笑った。

「先代は強かったのに、二代目は弱いなぁ」

「しっかりしてくだせぇよ、二代目」

 河原では昏倒した半兵太が、子分どもに両腕をとられてひっぱられている。

 坂本一家の方はさんざんにやられてぶっ倒れている。まだ元気の残っているのに、雷蔵がしつこく拳をくれていた。

 半兵太の弱さはもはやどうしようもなく、喧嘩が始まってすぐにやられてしまった。

 彦六一家の面々が、気絶している半兵太を囲んで笑い合っている。きねの許しを聞いたわけでもないだろうに、勝手に二代目と呼んでいた。半兵太を認めた証拠だった。

 度胸も切符もいいくせに、この致命的な欠陥のある二代目がおかしかった。

 黒田半兵太。二代目彦六、襲名。

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