年明けの城下町を、からっ風が吹き抜けていく。生憎の曇天に、人々の顔まで晴れない。
千町の店は小さい。彦六一家にとっては唯一の呉服屋だった。半兵太たちが着ているのも、ここから買い取ってやったものである。
店の主人、燻し銀の周五郎は、弱り切っていた。
「昨日になって突然云ってきたんでさぁ。あっしは不意をくらったんで、泡をくっちまって。なんせあっちは大富豪でやんすからねぇ」
周五郎はそう云って、顎の不精髭をごしごしやった。
「そんなこと関係あるかっ、了解をとってやってる事にいちゃもんをつけるたぁなんだ!」
半兵太が店の土間に座り込んで喚いている。
「やっぱあれですかね。親分が死んで、彦六一家にたいする義理も情もなくなったんですかね」
周五郎がさびしそうに云った。この男も彦六に惚れ込んだ一人だった。
半兵太は何も云わない。仁助が云った。
「西田屋のは本気でしょうかね。周五郎兄貴、どうしやす?」
「どうしますもくそもあるか、この店をしめるわけにゃいかねぇよ。彦六の親分が、体を張って開いてくれた店だ。そいつを親分が死んだからって、つぶしちまっちゃ、俺の男がすたっちまう」
まさに血もにじまんばかりの声だった。
彦六一家では、周五郎のような古株は自分の店を持っている。いずれも、死んだ彦六が町の長老たちにかけあって開いたものだった。今となっては形見の品も同然である。
「周五郎兄貴っ」
と声がして、男たちがぞろぞろと入ってきた。文悟たちである。
「若、いらしてたんで?」
雷蔵が半兵太に気づいた。
半兵太は、「ああ」と素っ気がない。
「話は聞いたか」
周五郎がちろりと文悟を見上げた。
「聞きやした。問題が起こるとは思っていやしたがね。まさか西田屋とは……」
後は苦渋ににじんで声にならない。
周五郎も苦そうに奥歯をかんでいる。
「若、少し席をはずしやしょう」
文悟が半兵太の袖をひっぱり、外に連れ出した。仁助が付いて来ようとしたが、それは眼光でやめさせた。