主題歌付き-AudioBook 【契りきぬ】山本周五郎著 ナレーター七味春五郎 発行元丸竹書房

 

契りきぬ

山本周五郎

作品について

『契りきぬ』は、山本周五郎によって書かれた時代小説です。武家の娘としての誇りを持ちながらも、運命のいたずらで遊郭に身を落とした主人公「おなつ」の、気高くも切ない生き様を描いています。純粋な愛、罪の意識、そして自己犠牲というテーマが、読者の心を強く揺さぶる物語です。おなつと、彼女が愛した侍・北原精之助との間の、形にはならずとも魂で結ばれた「契り」が、物語の核心となっています。




作者について

山本周五郎(やまもと しゅうごろう、1903年 – 1967年)は、日本の小説家。本名は清水三十六(しみず さとむ)。ペンネームは、一時期奉公していた質店の主人の姓から取ったものです。

大衆文学の分野で数多くの作品を発表し、特に市井の人々の哀歓や武士の生き様を描いた時代小説で高い評価を得ています。『樅ノ木は残った』『赤ひげ診療譚』『青べか物語』など、数々の名作が映画やテレビドラマ化され、今日でも多くの人々に愛されています。その作風は、人間への深い洞察と温かい眼差しに貫かれており、読者に生きる勇気と感動を与え続けています。

本文

あらすじ

足軽の娘おなつは、父と兄を洪水で亡くし、病気の母の薬代のために借金を背負い、遊郭「みよし」に身を落とす。武家の娘としての誇りから客を取らず、わざと酔いつぶれては難を逃れる日々を送っていた。

ある日、同僚たちが堅物で有名な若侍・北原精之助を落とす賭けをするのを聞き、おなつも自らその賭けに乗る。亡き幼馴染の面影を北原に見た彼女は、意を決して彼に近づき、事情を知らない北原の家で世話になることになる。共に暮らすうち、おなつは北原の誠実で優しい人柄に深く惹かれていく。一方、北原もおなつの気高さと純粋さに心奪われ、身分や過去を乗り越えて彼女を妻に迎えたいと願うようになる。

しかし、北原の愛が真剣であればあるほど、おなつは彼を騙すつもりで近づいたという最初の不純な動機に苦しむ。ついに北原と心を通わせた夜、彼女は自分の罪悪感に耐えきれず、彼の元から姿を消してしまう。一年半後、猿山の温泉宿で北原の子・鷹二郎を密かに育てていたおなつを、北原は探し出す。再び愛を告げ、一緒に暮らそうと説得する北原に対し、おなつは彼の愛を受け入れながらも、自らの過去を許すことができなかった。最終的に彼女は、愛する人の未来を汚すまいと、再び彼の元を去る道を選ぶ。遠ざかる北原の背中を息子に見せながら、「あれがあなたのお父さまだ」と涙ながらに語りかけるのだった。

主な登場人物

おなつ

物語の主人公。武家の娘だったが、家の災難のために遊郭に身を落とす。気位が高く、芯の強い女性。

北原精之助

堅物で知られる心優しい若侍。おなつの人柄に惹かれ、深く愛するようになる。

おてつ

遊郭「みよし」の女あるじ。さっぱりとした気性で、おなつのことを気にかけている。

いね

猿山の温泉宿「むろい」の女将。おてつの叔母にあたる。追われたおなつを匿い、母親のように支える。

Q&Aのコーナー

純粋な愛と自己犠牲、そして罪の意識と贖罪が中心的なテーマだと考えられます。おなつは北原への深い愛情がありながらも、彼を騙そうとした過去の罪悪感から、自らの幸せを犠牲にして彼の元を去る道を選びます。愛する人の名誉を汚すことなく、一人で強く生きていくという彼女の決断の中に、愛の究極的な形が描かれています。

北原を心から愛しているからこそ、彼を騙すという不純な動機で近づいた自分の過去を許せなかったためです。彼女にとって、北原との愛は汚してはならない神聖なものでした。そのため、彼の妻として隣にいる資格はないと考え、彼の前から姿を消すことで、その愛の純粋さを守ろうとしたのです。それは彼女なりの、最も誠実な愛の表現でした。

「契りきぬ」は、「契りを交わした」という意味の古い言葉です。物語の中でおなつと北原は、正式な夫婦の契りを交わすことはありませんでした。しかし、一夜を共にし、子をなし、互いに深く愛し合ったことで、二人の魂は固く結ばれていました。形の上では結ばれなくても、心の中では永遠の愛を誓い合った、その精神的な結びつきこそが真の「契り」であると、このタイトルは象徴しているのではないでしょうか。

© – このページは山本周五郎の作品『契りきぬ』を元に作成されました。

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