講釈西遊記

講釈西遊記

潅江口の武神

 牛魔王と羅刹女が郭羽の部下だったと聞いて、三蔵は急速に疑惑を深めていった。
 もしやと思い照妖鏡でうつし見たが、郭羽にはなんらの変化もない。照妖鏡は真実の姿をうつしだす鏡だ。郭羽が妖怪が変化した姿ならば、鏡には正体が映るはずなのだが。
 郭羽は太宗の前に引き出され、さんざんに尋問を受けていた。
 砕けた天井からは、争う妖怪たちの姿が見える。
「悟空、八戒、悟浄……」
 三蔵はまさに胸のつまる思いであった。ようやく手に入れた大事な仲間が、あの妖怪に殺されてしまう。そう思うと、修業のできた三蔵も、とても平静ではいられなかった。
 郭羽はよもや牛魔王が敗れるとは思わなかったが、たとえあの妖怪が悟空を殺しても信用回復にはならない。
 知らぬ存ぜぬを通すしかないが、それで通ずる相手ではなかった。
(玄奘め……)
 三蔵に対する怒りが急速に深まる。自分を罵倒する太宗たちも、残らず皆殺しにしてやりたかった。
(見ていろ。宝玉のナゾをといたら、貴様らなど……)
 胸の奥で怒りの湯を煮えたぎらせていたら、またも天井を打ち破って牛魔王が飛び込んできた。
「うわぁ」
 太宗たちは肝を飛ばして逃げ散った。
「おのれ、よくもわしをだましおったな!」
 牛魔王は猛然と怒って混鉄棒をふるった。
 郭羽も都随一と言われた剛の者である。寸でのところで混鉄棒をかわすと怒鳴り返した。
「なんのことだっ」
「なんのことだとっ? 貴様、宝玉はただの宝なんぞとぬかしおって……!」
「あ、あれは……」
「うるさい! 義兄弟にまで嘘をつくような奴はクズだ。俺がくさった性根を叩きなおしてやる」
 牛魔王はボタボタと牛の目から涙をこぼし、混鉄棒を平らにかまえる。これぞ愛の鞭である。
(宝玉だと?)
 話を聞いた三蔵はぎょっとなった。宝玉は郭羽が持っている。しかも、牛魔王と義兄弟だと?
「お、お前、いつ妖怪なんぞとさかずきをかわしたっ」
 太宗はすっかり狼狽して、かすれ声をはり上げた。
 まわりの側近たちは、牛魔王の憤怒の形相に心の臓まで震え上がり、腰を抜かしかけている。
「ま、待て、牛魔王、話を聞け」
 嘘がバレたと知った郭羽は、すっかりうろたえてしまった。
「お前が親玉か!」
 そのうえ、悟空まで郭羽の前に飛んできたではないか。
 これに続いてブタと河童の妖怪まで現われたからたまらない。
「さっさと俺にかけた術をとけ!」
 悟空は怒って妙意棒を振り回す。太宗たちはどういうことだと喚き散らす。千悌と托羽は泡をふいて気絶も寸前。

□  お話とぎれるその二

 ここで、再び皆々様に頭を下げたい。またも、原稿が消え去ってしまったのです。この後、どのようなシーンがあったのかは、作者本人も覚えていないのですが、ともあれ、郭羽は正体を現し、二郎神君へと姿を変えます。郭羽、牛魔王との関係も語られたはずですが、詳細は不明。那托と李天は、それぞれ、なだ太子、托塔李天王となって本性を現し、悟空たちに戦いを挑みます(ともに原作では天界編で登場しております。漢字はワープロでは外字を使用していたのですが、テキスト版では残念ながら復活できず。いずれサポートしますので、ご容赦、ご容赦) さて、物語は、三蔵の前に、利扇こと羅刹如が現れ、これを救わんとする悟空、悟浄めが、なだ太子に行く手を阻まれる(八戒は托塔李天王と格闘中)ところから再開されます。

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