ねじまげ物語の冒険 全文掲載!

◆第三章 シャーウッドの隊長と副隊長、イングランドに再会すること

 

◇章前 モーティアナ

 モーティアナは嘆き悲しんだ。所は王宮。彼女はジョン王に与えられた一室にいて天蓋のついたベッドの中央に水晶球をおいている。その玉にぶつぶつと話しかけている。彼女自身は跪いて、怒りに身を震わせていた。
「お許し下さい尊師。きゃつらめを取り逃がし申した」
 ウィンディゴは水晶球の内から鼻を鳴らしたようだった。「さすがは牧村の一族よ。幼年といえど訓練は受けていたと見える。伝説の書を使いこなしおったわ」
 モーティアナは舌打ちをしたい気分だった。憎むべきは刃物を持った異相の少年。あろうことか彼女の大切な蛇をおぞましい刀剣術で斬り裂きおった!
 が、この失態もウィンディゴはおもしろがっているようである。モーティアナはウィンディゴと少年らの関係を疑った。いったいどういうおつもりか。
「やつらめロビン復活をあきらめておらんと見える。小僧共の考えそうな事よ」
「好きにさせますので」
「そうではない……」
 とウィンディゴはここで声を潜めた。モーティアナは彼の言葉を聞き逃すまいと膝立ちのままにじり寄った。彼女は承諾の声を上げ、小刻みに頷く。それは一興、一興! 水晶球のウィンディゴが揺れ残忍な笑みを浮かべた。
「手はすでにうっておる。やつらがその窮地を切り抜けるか見物よ」
「――つきましてはやつらの守護者のことにございます」
 モーティアナは奥村とミュンヒハウゼン男爵の行動について語った。二人がシャーウッドの森に出たこと、モーティアナ自らがおもむき、その手で森を焼き払ったこと。
「軍勢を率いて攻め立てましたが、きゃつら森の残党どもに手を貸し、窮地を切り抜けました。今はリチャードの子息のいる居城に立て籠もっております。ノッティンガムの州長官をそそのかして、城を攻めさせる手筈にございますが……」
「しぶといやつらよ。どうあがいた所で、すべては我が手の内にある。伝説の書もあの小僧もわしのものだ!」
 はっ、とモーティアナは平服したが、ウィンディゴの声が外に漏れはしないか冷や冷やした。そして、モーティアナは奇妙に思った。ウィンディゴはあの洋一という小僧をすぐに殺す気がないと見える。それどころか小僧共が力をつけるのを喜んでいる節がある。ウィンディゴは水晶球より立ち消えたが、モーティアナはいぶかるように玉を見つづけた。が、そこからは自らの年老いた顔が見返すのみだったのである。

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