「ああ無情」主な登場人物
結城 新十郎(ゆうき しんじゅうろう)
本作の主人公であり、警視庁の依頼を受けて事件を捜査する名探偵。鋭い洞察力と論理的な思考で事件の真相に迫る。
捨吉(すてきち)
モーロー車夫。物語の冒頭で事件に巻き込まれる。粗野だがどこか憎めない人物。
中橋 英太郎(なかはし えいたろう)
海外貿易商事の社長。物語の主要人物の一人であり、事件の中心人物。
ヒサ
中橋の妾。物語の展開を大きく左右する人物。彼女の失踪と死が事件の発端となる。
ヤス
ヒサの召使い。中橋とは遠縁にあたる。事件の鍵を握る重要な人物。
荒巻 敏司(あらまき としじ)
医学部の書生。ヒサと深い関係を持つ。放蕩者として知られる。
梅沢 夢之助(うめざわ ゆめのすけ)
女剣劇の看板役者。中橋の昔の愛人であり、荒巻とも関係を持つ。
小山田 新作(おやまだ しんさく)
狂言作者見習いの文学青年。ヒサに言い寄っていた過去がある。
「ああ無情」物語と朗読
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あらすじ
夜の上野広小路、モーロー車夫の捨吉は、不審な紳士から「行李」を運ぶ仕事を請け負う。自宅に持ち帰った行李から現れたのは、惨殺された女の死体だった。捨吉は逮捕されるも、優秀な巡査・仲田の捜査により、彼が無実であることが判明。事件は中橋家をめぐる複雑な人間関係が絡んだ大犯罪へと発展する。警視庁から招かれた名探偵・結城新十郎は、中橋英太郎の妾・ヒサの失踪と死、そして中橋自身の失踪という二つの事件の関連を探る。錯綜する証言、そして奇妙な変装の謎。果たして新十郎は、世にも巧妙に仕組まれた犯罪の真犯人を暴き出すことができるのか?
Q&Aコーナー
「明治開化 安吾捕物帳」は、坂口安吾が執筆した連作短編の探偵小説シリーズです。明治時代初期の東京を舞台に、警視庁の天才探偵・結城新十郎が、奇妙で難解な事件を解決していく物語です。当時の風俗や社会情勢が詳細に描かれており、単なる謎解きにとどまらず、人間の心理や社会の暗部を深く掘り下げています。安吾独自の視点と、既存の探偵小説の枠にとらわれない自由な発想が特徴です。シリーズ全体を通して、推理の面白さだけでなく、明治という時代の空気感や、そこに生きる人々の情念が色濃く描かれています。
クロロホルム(Chloroform)は、19世紀半ばから20世紀初頭にかけて、麻酔薬として広く医療現場で使用されていました。しかし、その後の研究で肝臓毒性や心臓への影響など、人体への危険性が明らかになり、現在では医療用麻酔としてはほとんど使用されていません。作中で犯罪に利用されているように、当時はその危険性が十分に認識されておらず、比較的手に入れやすい物質であったため、悪用されることもあったと考えられます。
「音次にクロロホルムをかがせて昏倒させ」
「クロロホルムでねむらせて絞殺したが」
物語の中では、犯人がクロロホルムを麻酔として使用し、被害者を昏倒させたり、殺害したりする手段として描かれています。これは当時の知識や利用状況を反映した描写と言えるでしょう。
女剣劇(おんなけんげき)は、明治末期から昭和にかけて隆盛した日本の大衆演劇の一ジャンルです。男性の役を女性が演じる「女形(おやま)」の要素を持ちつつ、特に立ち回りや剣術、アクションを主体とした劇が特徴です。派手な衣装や演出、そして女性ならではの華やかさや力強さが融合したエンターテイメントとして、多くの観客を魅了しました。物語は時代劇を基調とすることが多く、勧善懲悪や人情、復讐劇などが描かれました。作中では、梅沢夢之助が女剣劇の花形として登場し、その美貌と芸達者ぶりが描かれています。
このジャンルは、映画やテレビが登場する以前の大衆娯楽として非常に人気があり、特に下町の庶民に愛されました。当時の社会情勢や文化を反映した、活気ある芸能形式の一つと言えるでしょう。